モスクワに北朝鮮レストランは2軒ある。
ひとつはКОРЁ(コリョ)。中国やタイなど世界各地に点在する北朝鮮国営レストラン同様、店のスタッフは皆、北朝鮮から派遣されている。オープンは2009年で、出店閉店がめまぐるしい北朝鮮レストランの中で比較的長く続いている部類に入るだろう。
なぜか日本風のカレーライスがある
市の南西部。ショッピングセンターの駐車場の一角にある入り口はともすれば見落としそうなほど地味だが、階段を下りた先には100席以上を備える店内が広がっている。奥の壁一面には「金剛山八仙女伝説」の絵が飾られ、テレビ画面にはモランボン楽団の演奏が流れている。これだけでも十分ゾクゾクする異様な光景である。
料理はというと、定番の朝鮮料理で、素朴でなつかしい味。辛さも控えめで、これは辛い料理が苦手な人が多いロシア人の舌に合わせてのこと。個人的には白キムチ、チャプチェ、コムタンスープがおすすめで、本格的な平壌冷麺も人気メニューのひとつ。ソフトドリンクにコカコーラを揃えているのにはちょっとびっくりさせられる。変わったところでは、なぜか日本風のカレーライスがある。
ロシアで北朝鮮の料理を食べるという物珍しさと、リーズナブルな値段でそこそこの味が楽しめるとあって、モスクワ在住の日本人の間で評判の店だったのだが、ミサイル発射や核実験のニュースで騒がしくなった昨今、さすがに邦人の客足は遠のいてしまった。それでも店自体は繁盛していて、おもにロシア人、中国人で混雑している。「胃袋に右も左もない」と嘯いてその後も何度か利用しているものの、店に入るときにはやはり後ろめたいものがある。