大好きだった兄が、ある日突然失踪した。彼が残したのは、巷を騒がせる殺人鬼「A」に人質にされたという情報、そして誰かにメールで送った「影霧街」という謎の街の情報だけ。検索しても出てこないその場所へ行くため、女子高生のみおんは兄を最後に見掛けた怪しいビルへの潜入を試みる――。
そんなストーリーではじまる漫画『影霧街』が話題を呼んでいる。作中ではエログロシーンが連続し、一見すると怖さも付きまとう作品にもかかわらず、連載中の『ヤンマガWeb』では多くの反響があるという。なぜ読者は、日常ではありえない暴力や恐怖の世界を求めてしまうのか――? 作者の大瀬戸陸さんに聞いた。
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グロテスクなシーンの多い作品を好きになったきっかけは……?
――『影霧街』はホラーとサスペンス要素が強い作品で、エログロ描写も多いです。もともと作品設定を考えられたきっかけはなんだったのでしょうか?
大瀬戸 原点にあるのは小さい頃に読んだ漫画の『彼岸島』です。もともとは父がそういう作風の漫画が好きで、本棚に全部置いてあって。自分も物心ついて最初に読んだ漫画だったんです。変わっていますよね(笑)。
いわゆるエログロ描写の多い作品だったんですけど、読んでいたらすごく引き込まれて。父も止めることもなく、どんどんそういう作風の漫画を貸してくれるようになりました。そこから入って、グロテスクなシーンの多い映画や小説とかも好きになりました。
暴力シーンに描かれる感情のリアルさ
――確かに怖いもの見たさからグロい作品を読んじゃう……みたいな経験はみんなある気がします。俗にいう「エログロ作品」の魅力はどんなところにあるんでしょう?
大瀬戸 『彼岸島』の話で言えば、残酷なシーンであっても描写がめちゃくちゃ心理的なんです。加えて、人間の負の面を描いているわけじゃないですか。見ちゃいけない、現実に見られないものを見られるという意味で、幼心にこれぞエンターテイメントだと思いました。
目をそむけたくなるような暴力シーンでも、そこで描かれる人の感情はすごくリアルなので、少年誌の王道漫画と全くかけ離れているわけでもない。僕らと同じような気持ちを持った人が、怖がったり、欲情したりする……そういうリアルさがあるのも好きでした。