家族の世話や家事を行う子どもたちを指す「ヤングケアラー」。中学校の1クラスに2人はいるというヤングケアラーが、誰からのサポートを得られないまま家族のケアの負担を強いられると、学校生活にマイナスの影響が出ることもある。
ここでは、ヤングケアラーの実態調査や体験談を記した澁谷智子氏の著書『ヤングケアラーってなんだろう』(筑摩書房)から一部を抜粋。元ヤングケアラーの髙橋唯さんが同書に寄せた自身の体験談を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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子どもの頃からお母さんのケアをしてきた髙橋唯さんに、ご自分の経験について書いて頂きます。唯さんは今、24歳。2020年の3月に大学を卒業して、今、社会人3年目です。小さい頃、中学生の時、高校生の時、唯さんはどんな経験をして、どんな気持ちを抱いていたのか、ぜひ読んで頂きたいと思います。
両親が障害を持っていた元ヤングケアラーの経験
私は主に母親のケアをしてきた元ヤングケアラーです。ヤングケアラーと一口に言っても、ケアをする相手や置かれている状況、ケアをどう捉えているかは人それぞれでかなり違うと思いますので、とある1人の元ヤングケアラーの経験談として読んでいただけるとありがたいです。
私の家族は両親と私の3人です。私の両親は、私が産まれたときにはすでに障害をもっていました。父は私が産まれる前年に職場で事故に遭い、左前腕を失いました。しかし大抵のことは片手でこなしていて、普段の生活には人の助けを必要としていません。最近では身体障害のある人が車いすを使わずに立ってプレーする「障がい者立位テニス」を楽しんでいるくらい、元気な人です。
一方、母は高校通学中に交通事故に遭い、後遺症が残ったため、周りの人のケアを受けなければ生活することが難しくなりました。右半身が麻痺していて動かしにくいため、移動する際には杖か歩行器を使っています。長距離では車いすも使います。
加えて、高次脳機能障害も残りました。高次脳機能障害とは脳が損傷を受けた際に起こる障害全般を指し、人によって様々な症状が現れます。私の母の場合は特に記憶力の障害が目立ち、他にも注意力や判断力、物事を順序良く進める力(遂行機能)も1人で生活するには十分ではなく、まるで小さな子どものように常に見守っていなければなりません。また、私が高校3年生になる頃までアルコール依存症でもありました。