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高次脳機能障害とアルコール依存症の母親は「レンジでチンすらまともにできない」…元ヤングケアラーの24歳女性が語る“実情”

『ヤングケアラーってなんだろう』より #1

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高次脳機能障害を持つ母の状態

 高次脳機能障害とはどんな障害なのかを人に説明するのはとても難しいです。今回は、どこかに出かけるときを例に説明します。

 まず、母は出かける何日も前から1日に何回も「いつ出かけるんだっけ?」「明日だよね?」「水曜日だよね?」などと聞いてきます。そしていざ当日になると「え、今日出かけるんだっけ」と言い出し、今度は「何時に出発するの?」と何度も何度も聞いてきます。

 出かけるときに必要な物も自分では適切に用意することができないので、鞄に一式入れて用意しておいても、出かける直前にその鞄が気に入らなくなって勝手に別の鞄に換えてしまうことや「用意してあるから触らないで」と伝えても中身をいじってしまうこともあります。最近は小さな鞄が好きで、中身が入りきらずに溢れてしまっていることも多いです。

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 計画的に行動することも苦手なので、出かける何時間も前から玄関で準備をして座って待っているかと思いきや、いざ出かけようとすると「忘れ物した!」「トイレ!」などと言い出します。靴を履くのも「かかとを踏まないで」と言って直してあげないと、1人できちんと履くことができません。

 出かけた先でトイレに1人で行くと帰ってこられなくなるのと、トイレの中で転んでしまうことがあるので、個室の前までついて行く必要があります。鍵がかかっていて、明らかに人が入っていることがわかる個室のドアをドンドンと叩いてしまって、慌てて止めさせたこともありました。そのように公共の場でのマナーを理解することも難しいため、静かにしなければならない場所でも大声で話したり、あろうことか「見てー、あの人ハゲだよ!」などと言ってしまったりすることもあるので、一緒にいるととてもヒヤヒヤします。

 自分で出かけたいと言ったのに、いざ出かけるとその目的を忘れてしまうことも多いです。以前、2週間くらい足が痛いと言っていたことがあり、どうしても足が痛いから病院に連れて行って欲しいというので車に乗せたら「何買いに行くんだっけ、あ、お父さんのビールか!」と言い出したこともありました。いざ病院に着くと、痛いと言っていた足と逆の足をお医者さんに見せていました。そして母は体力がないので、出かけるとすぐに「疲れた」「嫌だー」「帰りたい」とぐずりだします。ようやく家に帰ってくると、もう私はヘトヘトですが、それでも母は「あれ、今日は何しに出かけたんだっけ? 買い物?」「夕飯まだー?」と話しかけてきます。

 私が子どもの頃から、それどころか私が生まれる前から、母はずっと「見た目は大人・頭脳は子ども」の状態です。私は年齢と共に成長して大人になっていきましたが、母は老いはすれども成長することはありません。いつからか、いったい私と母のどちらがお母さんなのかよくわからなくなりました。