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〈実例写真あり〉女優・鶴田真由の撮影で写真家が実践した“思っていた以上の写真”を撮る方法

『写真はわからない 撮る・読む・伝える――「体験的」写真論』より #2

2022/06/02

genre : エンタメ, 読書

note

ロケハンで偶然見つけた場所

 では、この写真は具体的にはどのようにして撮影されたのか。その前にいくつか説明をすると、ここは南インドのハンピという世界遺産に登録されている場所だ。初めて訪れた地なので、土地勘はまったくない。こんなとき、私は必要に応じてあることをする。

 ロケハンである。ロケハンとはロケーションハンティング(location hunting)の略(和製英語)で、「撮影地を探す」という意味になる。時々、音の響きから「ロケ班」と勘違いしている方がいるが、明らかな間違いだ。

 この撮影の際、前日の午後にロケハンをした。あちこち歩き、偶然、この場所を見つけた。遺跡群の間を巨大な川が流れているのだが、そこでたまたま観光用のまるで一寸法師が乗っていそうなお椀状の小舟を見つけた。それに乗っている客はおらず、数人の男たちが暇そうに近くの石の上に寝そべっていた。彼らが小舟の持ち主であることはすぐにわかった。

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 ここにボートを浮かべたら確かに絵になる。これを使って撮影できないだろうかと即座に考えた。おそらく、お願いすれば可能だろう。しばらくその場所に留まって太陽光を観察した。どんふうに陽が傾いていくかを知りたかったからだ。

頭の中に想像した光景とイメージのすり合わせ

 やがて日没近くなり、次第に空がピンク色に染まっていく。時計を見ながら時刻をノートにメモする。さらに、この時間帯に小舟が川の真ん中にいたら、どんな写真が撮れるだろうかと想像してみた。一枚の絵が浮かんだ。そして私は明日、この時間にここで撮影することを決めた。

 私は小舟の持ち主の男性に交渉することにした。明日、同じ時間にこの小舟を使って撮影をしたいので、二艘舟を貸してもらいたいと。交渉はすぐに成立した。さらに鶴田と同じ小舟に乗ってもらう、舟を操る男性を選んだ。絵になる方がいいからだ。つまり簡単なオーディションだ。渋めでキリッとした印象がある男性がいた。ただ、服装はТシャツ姿だった。新たに衣装が必要だと感じた。

 翌日の同じ時間帯を狙って私たちは少し早めに同じ場所へ向かった。そして前日にお願いした渋めの男性の小舟に、鶴田と二人で乗ってもらった。男性には私が日本から持参した真っ白な麻のシャツを着てもらった。さらに、同じく日本から持ってきたスカーフを首に巻いてもらった。このロケでは全体を通して、鶴田は白い衣装を着ることになっていた。それに合わせて、隣に誰かが立つときなどに必要となるかもしれないと考え、あらかじめ準備していた。

 私は撮影するためにもう一艘の小舟に乗って川へ出た。川の真ん中あたりまできたら、それぞれの舟を操る男性に指示をして、舟の位置や距離、方向などを細かく伝えながら撮影に臨んだ。