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 このとき私の頭の中には昨日、想像した光景が刻まれている。その絵を頭の中に意識的に描く。それに目の前の風景を重ね合わせてゆく。イメージのすり合わせだ。同調。やがて、昨日とまったく同じように空がピンク色に染まってゆく。やがて、私が求めていた光景が立ち上がった。

横からの光でドラマチックな印象に

 ちなみにこの10日間ほどのロケの際、日中に撮影することはほとんどなかった。多くは早朝と夕方から日没の時間だけに限って行った。撮影は最終的に展示と写真集をつくることを前提としていた。だからテーマやコンセプトと深く関わっていて、表現上の選択でもあった。

 赤道に近い地なので、日差しがとにかく強いことが深く関係している。日差しが強ければ、当然、影も濃くなる。陰影がはっきり出る。ポートレートを撮る際、顔に影が強く出ることはできれば避けたい。特に、目の下などにそれが出るのはけっして美しいものではない。意図的にそれを強調する場面はもちろんあるが、今回は避けたかった。だから、直射日光が被写体に当たる際は、できるだけ正面からの光で撮りたいと考えた。すると、日の出直後か日没直前ということになる。

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 それに、横からの光は被写体を立体的に見せてくれる。例えば懐中電灯(スマートフォンのライト)のようなもので卓上のコーヒーカップなどを照らしてみてほしい。横からの方が明暗がはっきりするので立体的に見える。光も面を均等に照らすのできれいだ。それに上から照らすよりも影が背後に長く伸び、ドラマチックな印象になる。それらの理由から、その光を使いたかった。ただし、できるだけ顔には影が出ないことを望みながら。

最良の「いま、ここ」を求めて

 繰り返すが、写真は「いま、ここ」でしか撮ることができない。だから、その「いま、ここ」を待つ。あるいは「いま、ここ」を能動的に作り出す。少し前から、ほんの少し先の未来の「いま、ここ」を予測する。川、鶴田、白い衣装、男性、小舟といった要素に、絶対にコントロールできない夕暮れ少し前の光が交わる一点をぶつけるとでも言おうか。

 もちろん、予期していない要素が加わることは多々ある。雨が降る、急に風が吹く、太陽が雲に隠れてしまう、舟を操る男が約束通りに来てくれないことだってありうる。ただ、未来の「いま、ここ」を予測して準備しないことには何も始まらない。最良の「いま、ここ」を求め、待ち、目の前に現れたら迷うことなく掴み取る。すると、思ってもみなかった偶然が重なるだけでなく、思っていた以上のものが撮れることがある。