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2022/06/09

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

 こうしてみると公私のメリハリが相当ついているようにみえるが、それでも日本に居れば次から次へと課題が持ち上がり、自由な時間を作るのは難しい。だから海外出張をした時には、わざと「空白の1日」を作るようにしていた。海外に4日間滞在するという日程を組んでいれば、5日間にするといった具合である。むろん平日に休暇を取るわけにはいかないので、日程は週末を絡めるようにする。

「空白の1日」は誰にも居場所を知らせず、自分で予約を入れ、投宿したホテルで1日中本を読み耽ったり、見損ねていた映画を鑑賞したりする。リフレッシュをして再び仕事に臨むのに、帯同者がいることはかえって不便。だから可能な限り単独行動を取るようにしていた。

突然スマートフォンが鳴り「瀬戸さん、急な話だけれど……」

 2018年10月27日土曜日は、この空白の1日だった。カラッと晴れたローマにあるホテルで朝食をゆっくり取り、食後にカプチーノを飲みながら、「今日はどの本を読むかな」などと考えていた時、突然スマートフォンが鳴った。電話の主はLIXILグループ取締役会議長の潮田洋一郎だった。

「瀬戸さん、急な話だけれど指名委員会の総意で、あなたには辞めてもらうことになりました。交代の発表は4日後の10月31日です。後は私と(社外取締役の)山梨(広一)さんがやりますから」

この写真はイメージです ©iStock.com

 潮田は抑揚のない話し方をする。この時もそうだった。藪から棒で、衝撃的な話を落ちついた声で伝えられるのはかえって不気味である。瀬戸の休日モードは一気に吹き飛んだ。

〈辞めろ? 指名委員会の総意? 交代発表は4日後? どういうことだ?〉

 潮田とは1週間前、赤坂にあるザ・キャピトルホテル東急で会食をしたばかりだった。その場で自分の人事については話題にもならなかった。

 会食には瀬戸と潮田、エグゼクティブの人材紹介を手がけるJ社の社長がいた。Jの社長は潮田と付き合いが長く、LIXILグループ幹部にはJの紹介で入社した人も少なくない。なにより瀬戸のLIXILグループ入りを仲介したのもこの人物である。3人には共通項があって、全員が東京大学経済学部土屋守章ゼミのOBだった。

 食事が終わると潮田とJの社長はホテルにあるバーへ消えていった。そこで潮田と軽く飲んだJの社長はその後、瀬戸に電話を掛けてきて、「潮田さんの話を聞いた印象だけれど、瀬戸さんは長期政権になると思ったよ」と告げた。約1週間前にそんなやり取りすらあったというのに、潮田は電話で「辞めてもらう」と言った。

 ローマで受けた電話で仰天したことは他にもあった。それまで瀬戸はCEOの人事権を事実上握る指名委員会のメンバーと良い関係が築けていると思っていたが、潮田は電話で、「辞めてもらうのは指名委員会の総意だ」と言った。

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