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トステムとINAXの経営統合の裏側

 もっとも中核であるトステムとINAXの力関係は対等とは言いがたかった。それは2001年の経営統合の形態をみるとわかる。表向きはHDの傘下にトステムとINAXがぶら下がる形になっているが、統合するにあたってHDを新設したのではなく、トステムがHDの母体で、ぶら下がったトステムは新設された企業体である。だから経営統合はしたものの買収企業はあくまでトステムで、INAXは被買収企業だった。

 健次郎の自叙伝ともいえる『熱意力闘』(日本経済新聞出版社刊)には当時の経緯が描かれている。

 INAX創業家出身の2代目社長で中興の祖と呼ばれ、当時会長だった伊奈輝三が2000年11月、健次郎に電話をかけ、面会を申し入れた。輝三がINAXの本社があった愛知県常滑市から単身で東京にあるトステム本社にやってくるというので、健次郎も1人で応対。すると輝三はいきなり「両社が一緒になってはどうでしょうか」と提案した。

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 健次郎は、それまで深い付き合いがあったわけでもなかった輝三の急な申し出にひどく驚いたが、その場で同意し、経営統合は事実上1時間足らずで決まった。その際、輝三は株式の統合比率やトップ人事などに一切の前提条件を付けなかった。健次郎は『熱意力闘』の中で、「あれほどの優良企業がと思うと、今も不思議な気がする」と記している。

 この経営統合について、当時を知る関係者は大概こう言う。

「もともとトステムは業界6位だったが、営業の猛者たちが片っ端から商談を成立させてトップにのし上がった会社。一方、INAXは争いを好まない、お公家さん集団のような会社だった。企業体質が全く異なる2社の経営統合は驚きで、獰猛なトステムにおっとりしたINAXは飲み込まれてしまうんだろうなあと思った」

 企業体質の違いはその後のLIXILグループの権力構造に如実に現れている。瀬戸が潮田からの突然の電話で辞任を迫られた2018年10月時点の取締役の構成をみると分かりやすい。総勢12人のうちトステム出身者は潮田を含めて4人、対するINAX出身者は創業家出身の伊奈啓一郎と、INAX最後の社長だった川本隆一の2人しかいない。

 残る6人のうち1人は瀬戸。あとの5人はコンサルタント会社マッキンゼー・アンドカンパニー出身の山梨広一、元警察庁長官の吉村博人、作家の幸田真音、英国経営者協会元会長のバーバラ・ジャッジ、公認会計士の川口勉。いずれも潮田の要請を受けて社外取締役に就いた人たちだ。