LIXILグループは指名委員会等設置会社で、潮田と山梨、吉村、幸田、バーバラの5人がCEOの人事権を事実上握る指名委員。取締役のうち瀬戸と伊奈、川本を除く9人は濃淡こそあれ潮田に近い人物である。圧倒的にトステム系が多く、もしINAXとの間で争い事が起きれば、必ずトステムの主張が通るようになっていた。
怪しかったLIXILのコーポレートガバナンスの実情
指名委員会等設置会社について説明する必要があるだろう。
日本企業は長らく取締役が経営の「執行」と「監督」を兼任してきたため、株主の視点から経営されることが少なかったと指摘される。しかし、これからは株主の利益を重視した経営をするべきだとして、2015年にコーポレートガバナンス・コードが定められた。
日本語で企業統治と訳されるコーポレートガバナンスが最も機能する仕組みは指名委員会等設置会社だといわれる。株式会社は「所有(株主)」と「経営」が分離されていて、株主の負託に経営が応える形になっているが、指名委員会等設置会社は経営をさらに「執行」と「監督」に分離しており、業務は執行に委ね、それを取締役会が監督することになっている。執行が合理的で適正な経営判断をしているのかを取締役が監督し、株主の負託に応えるという建て付けだ。
LIXILグループがこの指名委員会等設置会社となったのは2011年。日本でコーポレートガバナンス・コードが導入されるより前だったこともあり、「コーポレートガバナンスの優等生」と呼ばれたが、実情はかなり怪しいものだった。
瀬戸に「指名委員会の総意で辞めてもらう」という電話をかけた潮田はLIXILグループの発行済み株式の約3%しか所有していない少数株主である。会社に顔を出すことは滅多になく、月の半分以上をシンガポールで過ごし、そこで骨董品を集めたり、プロの声楽家を呼んで発声練習をしたりする悠々自適の生活を送っていた。
しかし実質的にCEOを選任する機能を持つ指名委員会や取締役会のメンバーを自分に近い人材で固めているため、思い通りにならなければ経営トップのクビを飛ばすことができる。表向きは指名委員会等設置会社だが、実際はわずかばかりの株式しか持たない潮田がオーナーとして振る舞ういびつな会社というのがLIXILグループで、瀬戸への電話は絶対権力者の最後通牒と言えた。