幸田から聞いた“瀬戸退任劇”の驚きの裏側
指名委員会を10月26日に開くというのは急に決まったことで、事務局は24日から日程調整を始めた。忙しい身の幸田は「当日は残念ながら足を運ぶことができません。電話で参加します」と答えると、25日の夕方には潮田から直接電話があって、「瀬戸さんとは10月19日に夕食を一緒にしたんですけれど、そこで『CEOを辞めたい』と言い出したんです。びっくりしましたよ。至急後任を決めなければならない。だから私がCEOに、山梨さんがCOOになります」と言った。
幸田は唐突な話に驚きながら、「でも潮田さんは普段、シンガポールにいらっしゃるじゃないですか。経営なんてできるんですか」と聞くと、潮田は「方法は色々とありますよ」と答えた。
幸田は瀬戸にそんなやり取りがあったことを明かし、さらに「瀬戸が急に辞意を表明したため、潮田と山梨がショートリリーフで急場を凌ぐことになった。それならばリモート経営は仕方のないことかもしれない。いずれにせよ潮田CEO、山梨COOに就任は暫定的なものだ」というのが当時の自分の理解だったとも語った。
「幸田さん、僕は潮田さんに辞意なんか告げていませんよ。だいたい10月19日の会食で人事の話なんか出ていません」
瀬戸がそう言うと、今度は幸田が「驚きました」と言い、それから、26日の指名委員会の様子を説明した。
潮田が使った“二枚舌”の内容
指名委員会に出席したのは潮田と山梨、吉村博人の3人。自分とバーバラ・ジャッジは電話で参加した。さしたる質問は出ず、提案された人事案を指名委員全員が条件付きで賛成した。条件とは潮田が改めて瀬戸の意向を確認するというもので、31日の取締役会の前に指名委員会を再度開き、潮田の説明を聞くことが決まった。
幸田との電話で瀬戸は自分の退任が決まった経緯を理解した。つまりこういうことだ。
指名委員会を開くにあたり、潮田は幸田らに「瀬戸さんが辞めたいと言っている」と説明した。しかし指名委員会が開催された翌日の電話で、自分には「指名委員会の総意で辞めてもらう」と言った。つまり偽計を図った、言い換えれば二枚舌を使ったのだ。
翌日、瀬戸は吉村に電話を掛け、幸田から聞いた話が本当なのかを尋ねた。吉村は幸田が話した内容が概ね正しいと言い、さらにこんな経緯も明かした。
「潮田さんは『瀬戸さんが辞意を表明した』と言ったけれど、私にしてみれば『ああそうですか』と簡単には言えない。だから『潮田さんが瀬戸さんの意向を改めて確認した上でトップ交代を取締役会に諮ろう』ということにした。31日の取締役会の前に開かれた2回目の指名委員会は、潮田さんが瀬戸さんの意思を説明する場だった」という趣旨のことを言った。
事実が確認できて瀬戸は腹立たしさが募った。しかし二枚舌を使った潮田に反撃するべきなのか否か。心は揺れた。