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「僕は会食で辞意なんか告げていません」世間が注目した“リクシルお家騒動”の裏で…取締役会を手なずけた“創業家のウソ”

『決戦!株主総会 ドキュメントLIXIL死闘の8カ月』より #2

2022/06/09

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

〈クビ宣告があったことを知った幹部の中には「それはおかしいよ。泣き寝入りせず、立ち上がるべきだ」と言った人もいたけれど、指名委員会の総意なら仕方がないと考えて退任を受け入れた。しかし事実が違うのであれば話は変わってくる〉

〈とはいえ10月31日の午前中に開かれた取締役会でCEOの交代を決議している。その後の記者会見やアナリスト説明会で潮田体制はお披露目された。ここまで話が進んでいるのに、自分が暴れて会社が混乱に陥るようなことになるのは本望ではない。屈辱的なアナリスト説明会も我慢したのはそう思ったからだ。暴れることがきっかけで自分のキャリアに傷が付くのも困る。そうであれば大人しく引っ込むのも選択肢の1つではないか〉

写真はイメージです ©iStock.com

瀬戸退任への反響

 潮田に辞任を言い渡された時、瀬戸は「急に辞めれば株価は大暴落するだろうし、社員は混乱する」と言った。実際はどうだったのか。

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 記者会見は取引時間中に開かれたが、31日の東京株式市場でLIXILグループ株はさして反応することもなく取引を終了した。このため記者会見とアナリスト説明会の合間を控室で過ごした潮田は、同じ部屋にいた瀬戸に聞こえるよう大きな声で「山梨さん、株式市場は反応していないねえ」と言ったが、翌日になって、市場は潮田体制に露骨な疑問を呈した。11月1日の終値は1530円。前日に比べて14%下落した。

「社員は混乱する」という瀬戸のもう1つの“予言”も当たった。

 瀬戸の退任はほとんどの社員にとって寝耳に水で、辞めることを知ったのは、瀬戸が社内向けSNSの「ワークプレイス」にこんなメッセージを載せたからだ。

「私は2016年1月にLIXILに参画して以来、グループ内のシナジー最大化に注力し、組織の簡素化、フラット化を進め、水回り事業を担うLWT事業をLIXILグループの成長を支える中核事業として強化してきました。また、デジタル分野への投資を進め、新しい戦略を推進することで、業界を主導する体制を築いてきました」

「しかしながら、私と取締役会の間で今後の方向性に相違があることがわかりました。取締役会の決定によりこの会社の舵取りを任されたのですが、今後の経営方針の転換という取締役会の判断を尊重したいと思います。この3年間の、みなさんの協力とこれまでの貢献に心から感謝しています」

 その後、約10日間に瀬戸のコメントには400近くのリアクションが寄せられ、そのほとんどに「悲しい」というマークが付いた。中にはあえてコメントを寄せる従業員もいた。

「残念でなりません。瀬戸さんの方針がとてもオープンで大企業で働いているって思えました。仕事をしていて将来を明るく感じていたところなのに。残念です。できればやめないでいただきたいと切に思っております。方針の違いってなんだったのでしょうか。不安で仕方ありません」

「オープンな企業文化改革、フラットな組織改革、新価格制度、LIXILのあらゆる改革をスクラップ&ビルドで取り組まれており、いずれも共感できるもので軌道に乗ればきっと最高のLIXILになると思ってがんばってきたのですが、スクラップしたところでビルドの形を変えるのはあり得ません。ただただ不安です。瀬戸さんとしても本意ではないのかもしれませんが、このタイミングで退任しないでほしいです」

 従業員向けの対応で、潮田、山梨と瀬戸の態度は異なった。新体制が発足した11月1日に潮田と山梨は早速一部の営業幹部を集めて檄を飛ばしたものの、従業員全員に対するメッセージを発信することはなかった。それに広報担当役員のジン・モンテサーノは苛立った。