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2022/06/09

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 社会, 企業, 経済

瀬戸に掛かってきた弁護士の友人からの電話

 11月2日。金曜日の深夜に、吉野総合法律事務所の弁護士、吉野正己のスマートフォンが鳴った。掛けてきたのは瀬戸だ。新聞記事で瀬戸がLIXILグループのCEOを辞任したことを知っていた吉野はどう慰めたら良いのか分からず、とりあえず「大変だったなあ」と言うと、瀬戸は「その件で相談したいんだ」と言った。

 瀬戸と吉野は私立武蔵中学校時代からの友人である。共に武蔵高校へ進み、卒業後、瀬戸は東京大学文科二類に、吉野は文科一類にそれぞれ進学した。受験時代は分厚い参考書でも2、3度読めば、ほぼ内容が頭に入ったという記憶力を持つ吉野は、外務省の上級職試験に合格して東大法学部を卒業、外務省へ入省したが、わずか6年で退職。退職後に司法試験を受けて弁護士になっていた。

 瀬戸が辞任の顚末を話すと、吉野はこう答えた。

「取締役会が虚偽の情報に基づいて人事を決議したのなら、決議を無効にすることはできるよ。そんなことは俺がやってやる。ただ裁判には時間がかかる。それに潮田さんのCEO選任決議が無効になっても、瀬戸をCEOに選任する決議は別にやり直さなければならない。取締役会は潮田派が多数を握っているんだろ。選任決議に持ち込んだとしても瀬戸は選ばれないよ。残念ながら裁判に訴えても瀬戸のCEO復帰は難しいということだ。むろん手がないわけではない。臨時株主総会を開いて潮田さんと山梨さんを取締役から解任すること。でもそれはちょっと過激な行動だよな」

 退任発表後の従業員やアナリストの反応、株価の動き、そして吉野の話を聞いて、今後のキャリアを考えれば大人しくしている方が得策ではないかという心境に傾いていた瀬戸の気持ちは少し変わった。

〈騒がないことが会社のためになるかも知れないとも考えたけれど、退任を惜しんでくれる人がいる。少なくとも真実は明らかにしたい。しかし吉野は裁判だと時間がかかると言った。そうであれば退任の経緯を指名委員会の人にきちんと認識してもらい、決議を覆すのが最善策かもしれない〉

 まずは指名委員会だ。そう思った瀬戸は指名委員会から取締役会までに何が起きたのかを教えてくれた幸田や吉村に動いてもらおうと考え、2人に面会を申し込んだ。その一方で吉野に改めて連絡をして、「とりあえず幸田さんと吉村さんに会うつもりだ。話を聞いた後に会って、また相談させてくれ」と言った。

 瀬戸からの電話を受けた吉野は当初、友人として軽くアドバイスをしているつもりだったが、次第にかなり由々しき事態であることがわかり、法曹家として見過ごしてはいけない気になってきた。

 吉野は週末にいつでも瀬戸に会えるよう自宅で待機していた。しかし待てど暮らせど瀬戸から電話がない。ようやく掛かってきたのは11月4日、日曜日の夜だった。瀬戸は言った。

「申し訳ない。今日は吉野に相談することがなくなっちゃった。指名委員会を動かそうと幸田さんと吉村さんに何度も電話をしているんだけれど通じない。2人とも指名委員会から取締役会までの経緯をちゃんと教えてくれたのに、なんで急に距離を置くようになったのだろう。理由が分からない」

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