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「週刊文春」長寿エロ連載 挿絵画家の知られざる人生――2017 BEST5【エンタメ部門 5位】

文春のレジェンドがついに語った

2017/12/27

エッチなものほどきれいな線でシュッと描かないといけない

――女性を描くというところでは、小島さんの影響も大きかったですか?

 師匠の、小島功の絵って、あんまりいやらしく感じないですよね。浮世絵なんかもそうだけど線がきれいなんです。エッチなものほどきれいな線でシュッと描かないといけない。それから、描き手や絵に品位があればかなり描きこんでもいやらしくならない。描き手に品位がないと線にも出てしまう。もともと僕自身、女性の絵を描きたかった。なんだろうな、それは自然にあったんですが、きれいな線と品位、そのあたりは意識しています。

 

 僕がなぜ女の絵を描き続けているのかというと、アートの原点はエロティシズムとナルシズムの融合だと思っているからです。エロティシズムの本質は、人間の生き生きとした、水々しい生命力に溢れた美の極地であり、ナルシズムの原点は、自分の中にうずもれている未知の才能を、自力で引っ張り出す作業が必要だからです。

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 それからね、「淑女」でもとくに意識するところですけど、なるべくマンガチックな、ナンセンスな要素を入れようと思ってます。ナンセンスって、センスがないということじゃなくて、センスを超えたところにあるものでね。たとえばSEXを描く場合にも、男女の下半身同士が溶け合っているような、視覚的なはぐらかしみたいなものをできるだけ入れたいなと。

ランダムペンを使って独特の線を描く
サインが入った「淑女の雑誌」挿絵の原画

――「淑女」の挿絵を描かれるようになって、なにか変化のようなことは?

 変化というか「淑女」のおかげといえば、女性誌のね、SEX特集、性のリポートみたいなものに呼ばれるようになりました(笑)。

「性文化は変わったと思いますか?」なんてことを聞かれるけど、変わったといえば変わったよね。最近は少子化が問題になっているわけだし。「淑女」をはじめて10年ぐらいまでが一番お盛んだったような気がするな。バブルで景気もよかったし、海外でバンバンお金をつかって、エッチも、スケベもやりまくってた時代(笑)。

――エロよりもスケベという言葉のほうがお好きですか?

 そんなこだわりはないけど、スケベって言葉、使わなくなったねえ。語源はなんなのかな。種村季弘(ドイツ文学者)あたり調べてそうだけど。そうそう、一度、種村季弘さんに酒場でお会いしたとき、「国夫さんは弟さんですかとよく聞かれて、いちいちそうじゃないと言うのも面倒だから、デキの悪い弟ですということにしているから、そのつもりで」と言われたことがあったなあ(笑)。じゃあ、こちらもガリ勉の兄貴がいるということにしますって。

 

――歴代の「淑女の雑誌から」担当編集者が種村さんについて語る時に、必ず話題になるのが「先生は年に一回、世界旅行に行く」という話です

 ぼく、クルーズ船で世界中を旅するのが好きなんですね。で、旅行中に船内でスケッチ教室とかユーモアイラストとかのカルチャー教室を開いたりするんですけど、そういうときに、ぼく、「文春」でこういうエッチな絵を描いてますと自己紹介するとね、男性はニターッと笑ってね。「あんたか、あのスケベな絵を描いてるのは」って、急に打ちとけられるんだよね(笑)。このページのおかげで、みんなと親しくなれる。

仕事場に吊るしてある謎の人形は「マルガリータ」というペットボトルで作ったものだった
「このヒモを引っ張ると『もうどうにでもして~』という感じ」と満面の笑み

――クルーズをご一緒される奥様は占い師とか

 西洋占星術師のアリアドーネ・ユウコといってね。日本に初めて西洋占星術を広めたルネ・ヴァンダール・ワタナベさんが先生にあたるんですよ。その人の弟さんは渡辺雪三郎さんという有名なデザイナーで、おじいさんは宮川曼魚という江戸文化研究家、次のお父さんの代までうなぎの宮川の総元締めという家系。西洋占星術でいうとぼくも彼女も「火」になるから、相性はまあまあという感じかな。

――奥様は「淑女」のファンでらっしゃいますか

 ファンじゃないよ。仕事場も離れてますしね。タッチしたくないだろうし、こっちもオブザーバーがいるとやりずらい。こういう仕事はできるだけ、こういう大学の部室のようなところでコソコソとね。おおっぴらにやるもんじゃあない(笑)。

写真=鈴木七絵/文藝春秋

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