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「日本ではすぐに死刑になることはない」外国人犯罪者の“通訳人”、その意外な役割とは

2022/06/05

genre : ニュース, 社会

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 警察官による人権侵害は、あらゆる国で問題視され、国際問題にまで発展することすらある。だが年号が平成に替わった頃は、逮捕された外国人犯罪者の中には、罪を犯して被疑者となった自分に人権が保障されているということを理解できない者がいたという。

 日本人にしろ外国人にしろ、取り調べや留置にあたり認められている権利がある。“黙秘権”と呼ばれる供述拒否権や“弁護人選任権”だ。人権の1つとして保障される黙秘権は、言いたくないことは言わなくていい権利、自分に不利益な供述を拒否する権利である。弁護人選任権は、被疑者が弁護士に依頼して、弁護を受けることができる権利だ。

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被疑者の人権

 人権について何も知らない外国人被疑者に、権利としての内容を伝え、理解させるのは難しい。特に黙秘権を伝える時、伝え方1つでその後の取り調べが左右されることになるらしい。外国人被疑者を数多く取り調べてきた元刑事A氏は、「ほんの一呼吸だけの差が、外国人被疑者を黙秘させることになる」と語る。

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 それは、当時の中国やフィリピン出身の犯罪者に見られたという。

「中国では一党独裁体制の中で育ち、逮捕されれば白状するまで水も飲ませてもらえないなどということがあったと聞く。フィリピンの警察も尋問が厳しく、2014年には、ある拘置所の警察官たちがルーレットで拷問方法を決めていたことが明らかになり、問題になったぐらいだ。どちらの国も警察機関が強権だったのが特徴。被疑者の権利など無きに等しかったのだろう」(同前)

 そのような国からきた者に黙秘権を伝えると、意味がわからず一瞬、目を丸くするが、その後の反応はまちまちだったようだ。

取り調べに慣れた刑事が気をつけていた「一呼吸」

 外国人犯罪の取り調べには、当然のことながら語学が必要になる。A氏もいくつかの外国語を操るが、対応できる言語は限られている。外国人犯罪の捜査に携わるすべての刑事が語学に堪能なわけでも、何らかの語学ができるわけではない。

 例えば、警視庁組織犯罪対策部では、刑事たちが所属する課の中で、情報班や科学班、事件班など専門によっていくつかの班に分かれている。事件班は、事件現場の捜査などを専門に行うため、現場での高い捜査能力を必要とするが、外国人とのコミュニケーションを頻繁に行う情報班ほど語学能力を必要としない。