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「60になったときに、この仕事をやってるのは嫌だなって」50歳でホタテビキニを着て“自撮り”作家へ転身…女性写真家(56)が語る“吹っ切れた理由”

マキエマキさんインタビュー #2

2022/06/05
note

ーー作品の製作や発表にも、コストがそれなりに掛かりますよね。 

マキエ 都内のロケハンだとタダで、衣装代も高くて1万5000円程度ですけどね。ただ、地方ロケになると、飛行機代とかあるし、夫の分も出すので、1回の旅費で20万はいっちゃいますね。ギャラリーを借りると、当然ギャラリー代が掛かるし。作品の展示もパネル張りすると1点1万円、プリントだけの状態だとA2で1点8000円ぐらい。 

 でも、大きい作品は売れない。5万円の額無しA1ポスターが売れたのが、これまでで最大ですかね。一番売れるのが3000円の図録で、1回の展示で100ぐらい売れてくれるので。展示会1回で入場料、図録、うんぬんかんぬんで、売上でいうと80万円はいくかな。それでも前のほうがいいです。 

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阿部定の妓楼で撮影、雪山でホタテビキニ…

ーー作品自体についてもう少しお聞きしますが、消えゆく昭和的風景の記録という意義も込めて撮影に臨んでいたりは。 

マキエ そのつもりでいます。そのへんは見る人に委ねますけど。 

 2019年かな。大正楼っていう、阿部定が働いてた妓楼の取り壊しが決まって、慌てて撮りに行ったんです。その時から、「私のやってることって、記録として残していけるのかもしれない」って意識するようになって。どこそこが解体予定なんて話を聞くと、なるべく早く行くようにしています。 

阿部定が働いていた妓楼「大正楼」で撮影した作品(マキエマキさん提供)
阿部定が働いていた妓楼「大正楼」で撮影した作品(マキエマキさん提供)

 最近だと、小倉の旦過市場とか八戸にある元妓楼の新むつ旅館で撮りました。 

ーー6月7日から大阪で個展「マキエ式」が開催されます。そちらで展示されるかわかりませんが、これまでの作品のなかでも特に想いが深いものをいくつか教えて下さい。 

マキエ まずは、先ほども話に出た、西穂高の独標で撮ったホタテビキニですかね。山岳写真をやりたくて写真を始めたと話しましたけど、穂高連峰がすごく好きなんですね。自分のアイデンティティというか、そういうものが変わるきっかけになったホタテビキニを、大好きな場所で撮れたというのがすごく嬉しかったんです。 

ホタテビキニを着て西穂高の独標で撮影した作品(マキエマキさん提供)

 あとは、ヘルムート・ニュートンが、石田えりさんを撮った写真集『罪(immorale)』(1993年)のパロディ。気に入っていて、私の2作目の作品集の表紙にしたんですけど。

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