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「気持ちはわかるけど、利益出して続けていかなあかんからね」と黒カットソー女性が諭すように言った。料理の先生で、かんなみ新地の店の転業を応援しているという。

「(私の)教室に来たら1時間5000円もらわないといけないから、それとは別にママさんたちに無料で教えてあげてるの」とのこと。

「廃業して田舎に帰る人もいるけど、〇〇さんはおでん屋、△△さんは焼き鳥屋っていう具合に、まるごと飲食店街になれればいいなって思ってるんです」(ショートヘア女性)

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 そう聞いて、かんなみ新地は一斉転業に向かっている、と思ったのだが……。

かんなみ新地

真っ暗なかんなみ新地で灯りがついた「1軒の店」

 夜、1軒だけ扉が少し開き、灯りがついている店があった。

「え? え? 営業してるんですか」と、半歩入って訊ねると、「そうですよ、飲み屋としてね」と、カウンターの向こうから、シャネル風のジャケットを着た、おそらく50代の知的美人ママ。

「私、女だけど、取材で来てるけど、入っていいですか?」

「当たり前ですよ、飲み屋だから」

「あの~、でも1杯1万円とか、めっちゃ高かったりしません?」

「しないしない(笑)。ビール、ハイボール、サワー……どれでもおつまみとセットで1000円。明朗会計ですよ」 

かんなみ新地

「ほんと?」

「ほんと」

 よし、入ろう。茜色の壁を間接照明が照らす店だった。この時、先客はゼロ。カウンター席に座り、缶のレモンサワーを開けて、ママと1対1。「インテリアきれいですね」と口火を切ると、意外や意外、ママはいろいろなことを話してくれた。

ママが不意に「私、昔、現役やってんで」

「きれいなんは改装したばかりやから。コロナの緊急事態宣言明けて、さあこれからという時にこんななってしまってねえ」

——気の毒なタイミングやったんですねえ。今回なんで警告が出たんやろ。

「市長さんが女の人やからちゃうの。アマの市長さんは2代続きで女の人やで。その人がボートもやめ、って言ってるらしいよ」

かんなみ新地

——競艇も? それはなんのために?

「尼崎のイメージを変えようとしてるんちゃうの?」

——全市をあげて武庫之荘(尼崎市北部・阪急沿線の高級住宅街)のイメージに、とか?(笑)。

「そうちゃうかなあ。JRのほうなんか、きれいになってきてるしなあ。ここのこと『がんばれ』言うてくれる人、多いんやけど」

——そうなんや。でも、パトカー停まってる限り(性的サービスの店を)再開でけへん?

「そやねえ……」

 レモンサワーを一飲みする。と、ママは不意に「私、昔、現役やってんで」と言った。コイツは敵か味方か値踏みされたのか、とドキッとした。わずかの間をおいて、ママはかんなみ新地の“これまでの物語”を語りはじめた。それは、“風俗街”のイメージを大きく覆す話だった――。

撮影/井上理津子

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