なぜ日本の外交は、常にアメリカと中国に左右され続けるのか? 日本が両国との関係にセンシティブにならざるを得ない理由を、ジャーナリストの船橋洋一氏の新刊『国民安全保障国家論』より一部抜粋してお届けする。

 米中対立の激化が懸念されるなか、日本が絶対に避けるべき「最悪のシナリオ」とは?(全2回の1回目/後編を読む)

米中対立の激化が懸念されるなか、日本が「絶対に避けるべき状況」とは? iStock.com

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なぜ日本は米中に左右されるのか?

 米中「新冷戦」の中で、双方と関係の深い国々はどこもきわめて難しい立場に立たされている。どこも双方との関係を維持するための外交的綱渡りを強いられる。なかでも日本にとっては、アメリカは唯一の同盟国であり、日米同盟は、日本の外交・安全保障政策の要である。

 一方、中国は最大の貿易相手国であり、対中貿易は日本の全貿易の23.9%(2020年)を占め、対米貿易の14.7%(同)を上回っている。米中日は、世界1、2、3位の経済大国である。この3カ国の貿易関係と通貨体制と科学技術体系は世界経済秩序に大きな影響を及ぼす。

 軍事的には中国はなお正面からアメリカを試すことには慎重である。しかし、サイバー空間、グレーゾーン、影響力工作、政治戦などではアメリカに挑んでいる。中国はまた、核戦略の3本柱(ICBM、SLBM、戦略爆撃機)を強化し、相互確証破壊(MAD)の概念も含めて米国と対等な核戦力を追求しようとしている。米国とロシアがINF(中距離核戦力全廃条約)で縛られている間、中距離の弾道ミサイル・巡航ミサイルを200発以上へと増産してきた。それが東アジアの戦略バランスを著しく不均衡にしている。

 トランプ政権がINFから脱退したのは、ロシアが条約を遵守しないこともさることながら中国の核軍拡への対応という背景もある。そして、南シナ海の南沙、西沙、スカーボロー礁をつなぐ三角形の海底奥深く、SLBMを発射できる原子力潜水艦を遊弋(ゆうよく)させようとしている。この海を中国の「閉ざされた勢力圏」とする戦略の一環であり、いずれ西太平洋をめぐる本格的な米中軍事的対立と勢力圏闘争を引き起こす危険がある。

 日本列島から南西諸島(沖縄、宮古、石垣)、台湾、フィリピン、カリマンタンと続く列島群を中国は「第一列島線」と名付け、そこより大陸側の海洋への米海軍力に対するA2/AD戦略を追求している。太平洋国家を目指す中国にとって日本列島は目障りこの上ないバリケードと映る。

 しかし、アメリカにとっては太平洋パワーとしてユーラシアへの戦力投射を維持し続けるには日本との同盟は欠かせない。日本は太平洋とユーラシアを両にらみにするところに位置する。日本列島は単なる中立的アセットにとどまる存在ではない。それは恐ろしいほどの戦略的レバレッジを持つ位置にあるのである。