長年、ロシアとの協調を進めることでエネルギー問題を解決してきたドイツ。しかしウクライナ侵攻以降、この状況がドイツを窮地に追いやっている。

 なぜドイツは国際社会で「プーチンの共犯者」とまで批難されるようになったのか? ジャーナリストの船橋洋一氏の新刊『国民安全保障国家論』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

ドイツが直面した「ロシア頼み」のエネルギー問題 ©getty

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「ロシアからの化石燃料の輸入を止めていただきたい」

 2022年3月上旬。オンラインで開かれたG7エネルギー担当相会議に出席したウクライナのゲルマン・ガルシェンコ・エネルギー担当相は「世界は毎日、10億ドルのガス代金を私の国で人殺しをしている国の指導者に支払っているのです」と述べた後、懇請した。

「ぜひ、ロシアからの化石燃料の輸入を止めていただきたい」

 一瞬の沈黙が流れた後、ドイツのロベルト・ハーベック副首相・経済・気候保護担当相が答えた。

「私たちは、ロシアにエネルギーをこうまで依存してしまった。歴史的過ちだった。ただ、いま、これを言うのは胸が張り裂ける思いだが、ロシアからのエネルギーの輸入をいま、ここでストップすることはできない」

 苦渋に満ちた表情だった。ウクライナのゼレンスキー大統領は、その後、ドイツの連邦議会(ブンデスターク)でのビデオ演説で「ロシアに支払ったガス代金がこの戦争を賄っている」と言い、ドイツとロシアの二つ目の天然ガスパイプラインである「ノルド・ストリーム2」の放棄を訴えた。

 ウクライナを代表する気候変動学者のスヴィトラナ・クラコブスカは「(欧州は)化石燃料をロシアに依存してしまい、自由を奪われてしまった。この戦争は化石燃料戦争なのだ。ロシアの化石燃料に依存し続けるということはわれわれの文明を破壊することになる」と述べている。

 ロシアは輸出の47.5%を原油・石油製品と天然ガスで稼ぐ(石油22.5%、ガス14.7%、石油製品10.3%)。予算の40%、GDPの28%が化石燃料からの収入である。

 ロシアからエネルギーを最も多く買っているのは中国と欧州である。なかでも、欧州のロシアへの天然ガス依存度は、フィンランド(100%)、スロバキア(86%)、ブルガリア(80%)、オーストリア(80%)、スロベニア(80%)、ハンガリー(78%)、ドイツ(55%)、ポーランド(46%)、イタリア(39%)などの順で高い。ドイツの場合、石油と石炭のロシア依存度(輸入量における割合)はそれぞれ34%、45%である。