1ページ目から読む
2/4ページ目

 ここにはウクライナは入っていない。ウクライナは2015年以降、ロシアからガスの輸入を完全に停止した。「マイダン革命」の後の2014年〜2015年、ロシアがウクライナに対するガス供給を止めようとしたことが決定的だった。チェルノブイリ原発事故を経験したにもかかわらず、ロシアへのガス依存を減らすその一念で原発を推進してきた。発電量に占める原発比率は2020年には51%に上昇している(1990年は25%)。欧州ではフランス、スロバキアに次いで原発比率が高い。

「ロシアのガス輸入停止」に抵抗する産業界

 ドイツは、ハーベック副首相が述べたようにロシアからのエネルギー輸入をストップすることはできない。ロシアからのガス輸入停止に関しては産業界を中心に抵抗が強い。ブチャの虐殺後の対ロ経済制裁強化の際もドイツはガス輸入に関しては思い切った決断ができない。これに対してはウクライナだけでなくバルト・東欧諸国からも厳しい批判が浴びせられている。

 ノーベル経済学者のポール・クルーグマンは「今回、(ガス輸入禁止で)ドイツが経験するほどほどの犠牲へのためらいとドイツが10年前の債務危機に当たってギリシャはじめ南欧の国々に要求した財政緊縮の無慈悲な犠牲の要求」を比べてみるがいい、と述べた上で、「経済政策を道徳のドラマにしたがるドイツのあの有名な情熱は他国に対してのみ適用されるもののようだ」と皮肉っている。

ADVERTISEMENT

 ロシアのガスを遮断しない限りドイツはプーチンの戦争の「共犯者」であり、「恥ずかしいことに、侵略に対抗する民主主義国の対応の最も弱い環であり続けるだろう」と批判している。

プーチン大統領 ©JMPA

 2014年のロシアのクリミア併合の際、オバマ政権はロシアへの経済制裁を主導したが、ドイツをはじめ欧州諸国はエネルギー供給への跳ね返りを恐れ、足並みはそろわなかった。「ノルド・ストリーム2」の建設はすでに始まっていた。しかし、トランプ政権はオバマ政権よりドイツに厳しく接した。「ノルド・ストリーム2」を運営する事業会社に対する制裁を課した。

 トランプ米大統領は「ことエネルギーについていえば、ドイツはロシアからしこたまもらっているので、ロシアの虜になっているようなものだ」とメルケルをなじった。メルケルは「ドイツにはドイツの政策があり、我々のことは我々が決める」と一蹴したいきさつがある。