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 人間社会同様、国際政治においても3者の関係は落とし穴の多いやっかいなものである。アリストテレスは「自然は真空を嫌う(Nature abhors a vacuum.)と言った。国際政治では「力の真空」はバランス・オブ・パワーを突き崩し、不安定要因となりやすい。しかし、地政学的にはもう一つ「自然は3者を嫌う(Nature abhors a threesome.)」という不安定要因がある。三角関係は国際秩序を不均衡にさせかねない。日米中関係についてもそれは例外ではない。

「二等辺三角形」こそ米中安定の黄金時代

 しかし、この3者関係は1980年代から20年近く、天安門事件の後の対中制裁の一時期を除き、基本的に安定していた。シンガポールの建国の父と言われたリー・クアンユーは、日米中関係が「二等辺三角形」の状態にあるのが安定の秘訣であるとの洞察を披露したことがある。

 日米関係の辺が、米中、日中のそれぞれの辺より短い、すなわち強く、太く、他の2辺が同じ長さでそれより長く、すなわち弱く、細い関係がもっともよく安定する関係であり、黄金律であるというのである。実際、この「二等辺三角形」が維持できた時代は日米中安定の黄金時代だったといえる。今世紀に入ってからそれは急速に変形していった。いまでは、米中貿易額(2019年実績5252億ドル)が日米(同2150億ドル)と日中(同3470億ドル)いずれの貿易額をも上回る。しかも、日中関係が尖閣諸島をめぐって緊張し、日中の辺がひび割れを起こし、習近平・トランプ時代になって米中の辺が亀裂し始めた。

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 実は、日本の近現代は、日米中関係をいかに御していくかをめぐって苦しみ抜いた歴史だった。日露戦争後、満州事変と日中戦争を経て、太平洋戦争に至る戦争への道は、まさにその課題に失敗した歴史だった。戦後もその3者関係の危うさと怖さを何度も垣間見せた。そこには「日米中の罠」とでもいうべき落とし穴が潜んでいる。