任天堂の戦略は対極。ゲームファンから出る「PS5を買う意味がない」の声
このソニーの戦略の対極にあるのが、任天堂です。マリオやポケモンは、一部の例外はありますが、原則的に任天堂のプラットフォームで展開しています。以前はソニーも任天堂と同じ戦略でしたが、2020年からPCゲームへの展開を本格化。PSというゲーム機のブランドを抱えながら、マルチな色合いを強めようとしています。
ソニーのこの姿勢に対し、ゲームファンたちの意見は総じて厳しくなります。「PS5を買う意味がない」というわけです。
実際、せっかく新しいハードを買っても、メーカー側がそのゲーム機だけで遊べるソフトを出さない(=PC版で遊びたいソフトが買える)なら、わざわざハードを準備しなくても、PCで買えばよいという理屈自体は一理あるように思えます。
もちろん、家庭用ゲーム機を先行して出し、PC版は後からという時差はつけていますが、我慢すればゲーム機を買わなくてもよいじゃないかという人も出るでしょう。その結果として最悪、新しいハードが売れなくなるリスクもあります。
なぜ「反・任天堂的な戦略」を変えないのか
そうしたリスクはソニーもよく理解しているでしょう。それでもなぜ「反・任天堂的な戦略」を変えないのか。
約10年前の話です。任天堂の業績が過去最高だった2009年3月期の決算は、売上高は約1兆8000億円、本業のもうけを示す営業利益は約5500億円でした。対するソニーのゲーム事業はPS3の不振が響いて、売上高は約1兆500億円。約600億円の営業赤字を抱えるなど、大きな差がありました。
そして現在、2022年3月期の決算です。任天堂は売上高が約1兆7000億円で、営業利益は約6000億円と、全盛期に匹敵する好業績でした。しかし、ソニーのゲーム事業は、売上高が約2兆7000億円、営業利益が約3500億円となっているのです。
この10年、一時期は低迷した任天堂が再び数字を取り戻した点も見事ですが、ソニーのゲーム事業は、こと売上高に関してその任天堂を上回っているのです。
ちなみに任天堂は、売上高が2兆円に到達したことはありません。一方で、ソニーのゲーム事業は2年連続の2兆円越え。2023年3月期の計画では3兆6600億円を見込んでいます。同期の任天堂の計画では1兆6000億円の見通しなので、計画通りならソニーのゲーム事業は売上高の上では“ダブル・スコア”の差がつくことになります。