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「この娘は俺が自殺させるんだ」「サタンよ、神の力を認めよ」なぜ人は“時代遅れ”の悪魔祓いを頼るのか フランスには現役エクソシストが100人以上…

「この娘は俺が自殺させるんだ」「サタンよ、神の力を認めよ」なぜ人は“時代遅れ”の悪魔祓いを頼るのか フランスには現役エクソシストが100人以上…

2022/06/10

genre : ニュース, 社会

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 重厚な石造のカトリック教会の地下室。蝋燭の光で照らされた白い壁を背に、僧服をまとった数人の神父が祈りを捧げる。神父の前には、うわごとを呟き視線の定まらない信者の姿がある。およそ1時間弱におよぶ儀式の最後、紫色の帯を首にかけた神父が進み出てこう叫ぶ。

「現世の王子たるサタンよ、神の力を認めよ。砂漠でおまえを負かし、支配したキリストの前に跪くのだ。人類の誘惑者よ、この者の魂はおまえのものではない。ここを去れ!」

 十字架を突きつけられた信者は泡を吹き、床を這い回りながらしわがれた異様な声でキリストや神父を呪う言葉を吐くが、それも次第に力を失い、ノックアウトされたボクサーのようにだらりと地面へ横たわる……。

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パリにあるサン・ミシェル教会のデュロワジー神父

 これはホラー映画の1シーンではなく、現在もカトリック教会が行っているエクソシズム(悪魔祓い)の1場面である。歴史的にカトリック教国であるフランスには、全国におよそ100ある教区に必ず1人以上のエクソシストが存在する。そして「悪魔に取り憑かれたかもしれない」と主張する信者に対して、公式サービスとして悪魔を祓う儀式を行っているのだ。

エクソシストは「猫の手も借りたい」ほど忙しい

 どれほど依頼があるか疑問に思うかもしれないが、首都パリを含むイル・ド・フランス地域圏の教区のエクソシスト、ジャン・パスカル・デュロワジー神父によれば、「忙しすぎて猫の手も借りたい」ほどだという。

 デュロワジー神父は、作曲家のショパンや作家のバルザックが眠ることで有名なパリのペール・ラシェーズ墓地にほど近い、サン・ミシェル教会で仕事をしている。

「普段ほとんど取材は受けないのだが、今回は君が日本人だから特別にOKしたのだよ。それはそうと、なぜ日本はアメリカにばかり頼っていて再軍備をしないんだい?  再軍備さえすれば、日本は北方領土だって取り戻せるだろうに」と開口一番メガネの奥の目をくりくりさせながら神父は放言する。

 国際情勢についてはかなり怪しいところもあるようだが、神父が忙しいのは本当らしく、悪魔祓いのために教会を訪れた人の名前で台帳はびっしりと埋まっている。神父の秘書の電話は「ほぼ鳴りっぱなし」で、毎日5人ほどは新たな依頼者が現れるという。

悪魔祓い専用の祈祷が記された本など

「多いのは『誰かに呪いをかけられた』という相談だ。自分の人生の問題を解決するためにシャーマンや魔術師、霊媒師などに助けを借りて問題を悪化させた人たちがここに来るのだよ」とデュロワジー神父。