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悪魔に取り憑かれたかを判断する5つの基準

 魔術師と聞くと驚くが、フランスにはブルターニュなどの地方に元来伝わる民間信仰の他に、アフリカ系移民の持ち込んだヴードゥー教や、日本由来のレイキ療法など、非カトリック系のスピリチュアル系サービスが数多く存在する。

 これらのサービスを利用したところ状況が悪化し、どうしようもなくなって教会に駆け込むケースが多い。ちなみに依頼者の社会階層はまちまちで、キリスト教の信者とは限らないという。

 だが果たして「悪魔に取り憑かれる」とは、どのような事態を指すのか。実はカトリック教会には悪魔による憑依を見分けるための5つの基準が存在する。それによると、悪魔に取り憑かれた人物は次のような症状を示すという。

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1.声が変わり、床を這い回るなどの異常な行動
2.話せないはずの言語をしゃべる
3.知っているはずのないこと(行ったことのない場所で起きた出来事の詳細など)を知っている
4.キリストやキリスト教に関する事象への激しい嫌悪
5.異常なまでにつよい物理的な力

 ここまでくると1973年の有名なホラー映画「エクソシスト」そのものである。

写真はイメージです ©iStock.com

 5つの条件全てが揃うことは珍しいというが、デュロワジー神父も2016年に南ヨーロッパ出身の若い女性が、全く知るはずのない言語をしゃべったのを目撃している。

「彼女は症状が非常に深刻だったので月に2回、9カ月に渡って儀式を行った。もともとは不安の発作に襲われて教会に入れないと相談にきたのだが、途中から別人のように話し出したのだ。『坊主、おまえの祈りなんぞが役に立つと思うなよ。この娘は俺が自殺させるんだ』という調子で、完全に別人だった」

「いやだ、この娘は放さない!」

 さらに相談者は儀式の途中に地面を転がり回りながら、訛りのないオランダ語で「いやだ、この娘は放さない」と叫んだ。儀式の終了後に神父が本人に確認したところ外国語は大の苦手で、オランダ語など勉強したこともないと返答したという。

 教会の記録には、悪魔祓いの対象者が古代ギリシャ語や古代バビロニア語などの死語をしゃべった例さえあるという。

サン・ミシェル教会の待合室は荘厳な雰囲気が漂う

 とはいえ、過去には悪魔祓いが魔女狩りの裁判に使われた歴史があり、儀式の途中で相談者が死亡するケースもあったため、エクソシズムに対する世間の視線は厳しい。近年神父による未成年信者への性的虐待の歴史が明らかになったことも加わり、カトリック教会の権威は失墜している。

 そのためフランス人の知人に悪魔祓いについて聞いても、返ってきた反応は「なぜあのような時代遅れの伝統をわざわざとりあげるのか」という人が多数だった。

 それを受けてカトリック教会側も、相談者に悪魔祓いを施すだけでなく、精神科などでの診療を勧めるケースが一般的になってきたという。パリ郊外のアルジャントゥィユという街で仕事をする、悪魔祓いの経験が豊富なキャリオ神父はこう語る。

「例えば統合失調症の患者に悪魔祓いの儀式を行ったりしたら、非常に危険なことになります。なので私たちが悪魔祓いを行うのは、通常の面談を3回以上して、精神系の疾患ではなく悪魔が憑依しているとしか考えられないケースのみ。精神科の診療を勧めて儀式に至らない相談者も多いです。儀式を行うときも精神科の知識がある同僚に同席を頼みます」