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「家庭での性暴力や人工中絶、家族との不和…」

 当のエクソシストたちの間でも、現代社会における悪魔祓いの扱い方については意見がわかれている。リヨン近郊で仕事をするエマニュエル・フォール神父はこう語る。

フランス南部の都市リヨン近郊で働くフォール神父

「私は神父として悪魔の存在を信じているが、『悪魔に憑依された』という相談の内容を吟味してみると、他の原因があることがほとんど。家庭での性暴力や人工中絶、家族との不和、仕事が見つからないなど何らかの問題を抱えていて、それが悪魔によるものではないかと思っているケースが多いのです」

 もちろんフォール神父自身も、強烈な悪魔祓いのケースを担当したことがある。2005年にアフリカから越してきた40代の女性に儀式を行ったところ、女性は普段とは違った声でうめき、暴力的な行動をとるなど悪魔憑依の典型的とされる行動を示した。あまりに行動がエスカレートし、神父は儀式を中断せざるをえなかったほどだという。

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 それでもフォール神父は「原因は悪魔だけではないのでは」という思いが残ったという。

フォール神父は「悪魔の話をしない」エクソシストである

「なんでも悪魔のせいにしてしまえば…」

「彼女は以前精神科にかかっていたし、しかも夫を失ってフランスに移住したばかりだった。悪魔も関係あったのかもしれないが、それはわからない。彼女の行動があまりにも暴力的になったため、結局他のエクソシストが担当することになり、その人は憑依のケースと判断しましたが、私自身は彼女はおそらくなんらかの病気にかかっていたのだと思う。

 また別のケースで、明らかに憑依を演じている人もいました。しつこく悪魔祓いを要求してきたので、内心怪しいと思いつつ儀式を行ったのですが、その後なんと、『ほら私の言った通り、悪魔を祓えば解決したでしょう』と言い放ったんですよ。このようなこともあって、私は相談を聞くときに悪魔を中心に物事を考えることをやめました。なんでも悪魔のせいにしてしまえば人生は単純かつ簡単でしょう?」

 フォール神父は「エクソシストでありながら悪魔の話をしない」として、あらゆる症状を悪魔によるものだと主張するエクソシストたちから批判を浴びることもある。それでもフォール神父は、本当に重要かつ人を自由にするのは「悪魔からの解放ではなく、神への信仰である」と信じているという。