「力及ばなくて、申し訳ありません」
大阪地裁の大法廷を出た直後、弁護士からお詫びの言葉を告げられて、赤木雅子さんは思い出した。
「この言葉を聞くの、2回目や」
最初は4年前。夫、赤木俊夫さんが亡くなった翌月だった。俊夫さんの主治医だった精神科医のもとを訪れた時、雅子さんが部屋に入るや、医師は立ち上がって深々と頭を下げた。
「私の力が及ばなくて、こんなことになって、申し訳ありません」
夫が死んだのは主治医のせいではない。誠実に対応してくれなかった職場のせいだ。今回、裁判で起きたことも弁護士のせいだとは思っていない。お詫びをする必要のない2人が謝ってくれて、お詫びをすべき人は誰も謝ってくれない。そんな不条理を感じながら、雅子さんは心の底から実感した。
「私、負けちゃったんだな」
改ざんに関与した財務官僚ら5人の尋問を申請
森友学園との土地取引をめぐる財務省の公文書改ざん事件。近畿財務局の赤木俊夫さんは現場で改ざんに反対したのに関与させられ、追い込まれてうつ病になり、命を絶った。なぜこんなことになったのか? 財務省の調査報告書は具体的なことをほとんど記していない。
妻の雅子さんにも納得いく説明がない。最高責任者の麻生財務大臣(当時)も、財務省理財局長として改ざんを指示した佐川宣寿氏も、誰も謝罪に訪れない。そこで雅子さんはおととし3月、国と佐川氏を相手に裁判を起こした。狙いは「真実が知りたい」、ただそれだけだ。
しかし国は誠実に対応することなく、何の説明もないまま去年12月、「認諾」という手続きでいきなり裁判を終わらせた。真相を闇に葬ろうとしていると雅子さんは受け止めた。残る佐川氏との裁判で真実に迫ろうと、佐川氏本人をはじめ改ざんに関与した財務官僚ら5人に法廷で証言を求める尋問。
ところが5月25日、大阪地裁での弁論。開始早々に中尾彰裁判長が告げた。
「原告が申請した尋問はすべて必要ないと判断します」
その瞬間、原告席に座っていた雅子さんは、みじろぎもせず正面を見つめていた。尋問がすべて退けられた以上、法廷での証言は行われず、裁判で真相解明の道は断たれたに等しい。裁判所は佐川さんを守ったの? これで裁判は終わってしまうの? 半信半疑のまま法廷を出た瞬間に聞いたのが、冒頭の謝罪の言葉だった。