森友事件の捜査の過程で、大阪地検特捜部は財務省から資料の任意提出を受けた。捜査は佐川氏をはじめ全員不起訴で刑事責任を問わずに終わったから、提出された資料は返還されたはずだ。雅子さんは、財務省と近畿財務局が検察に任意提出した資料の開示を求めて裁判を起こしている。
だが国は、検察に資料を出したかどうかを答えない。答えると捜査に支障を及ぼす恐れがあるとして、資料があるかどうかも答えない。これは法律用語で「存否応答拒否」、あるいはアメリカでの類似事案の名前から「グローマ―拒否」と呼ばれる。だが、それっておかしくないか? 財務省が検察に資料を任意提出したというのは繰り返し報道された事実なのだ。
執筆した本を証拠として提出することに
この情報開示の裁判に向け雅子さんは弁護団を拡充することになった。尋問が退けられたまさにその日、5月25日、メンバー全員による会議が開かれた。これまでの松丸正弁護士、生越照幸弁護士に加え、森友事件の真相追及で知られる阪口徳雄弁護士と高須賀彦人弁護士、それに情報公開に詳しい坂本団弁護士が参加した。坂本弁護士には『情報公開・開示請求実務マニュアル』という著書がある。この日の会議で、ある提案をした。
「本を証拠提出しましょうよ。財務省が任意提出したって書いてあるでしょ」
この「本」とは、雅子さんと私の共著『私は真実が知りたい』(文藝春秋)のことだ。
その154ページから次ページにかけて、赤木俊夫さんの直属の上司だった近畿財務局の池田靖統括国有財産管理官(当時)が雅子さんに打ち明けた話が出てくる。
総勢5人になった弁護団で反転攻勢
大阪地検特捜部が近畿財務局に資料の任意提出を受けに訪れた際のこと。池田氏は強制捜査と混同して「ガサ入れに来た」と表現しているが、俊夫さんが池田氏に「これも出していいですか?」と示したのが、後に「赤木ファイル」として知られることになる、改ざんの詳細を記録した書類だった。池田氏は「全部出してください」と答えたという。
池田氏の話は録音データで残っている。この話から財務省が検察に資料を任意提出したこと、その中に「赤木ファイル」も含まれていたことは明らかだ。
俊夫さんの手帳にも、2017(平成29)年6月28日に「任ガサ」という文字が残っている。これは「任意のガサ」つまり「任意提出」を指す。「18:30特捜部来庁」の記載もある。
そこで、この経緯を記した本を証拠として裁判に出し、国の主張を覆そうという狙いだ。雅子さんは、総勢5人になった弁護団で反転攻勢に出る。そんな気持ちがLINEで届いた。
「ここまで叩き落とされ叩き潰されたから、あとはもう上がるしかないと思います。これからどう生きるかですね」