芸能人としての「魅力」が、役者としての評価を遠ざけてきた?
原作小説が書かれたのは2012-2014年であり、そこから映画化には7年を要している。作品の中のアニメ表現がやや古い、という意見もSNSにはあった。だが、この王子千晴と斎藤瞳という二人の演出家が象徴する思想、「表現者が奉仕すべきなのは作品の美しさか、それとも子供のための正しさか」というテーマは、期せずして2022年、世界中の映画制作者が向き合う、きわめて同時代的な命題でもある。
強いエゴを持つカリスマ的な男性演出家に圧倒的な影響を受けながら、彼の世界観に異和を内心抱え、新しい自分の表現を切り開こうとする若い女性演出家、斎藤瞳の物語は、ある意味では王子千晴を仮想敵に置くことによって原作以上に輝いている。そして結末の詳細は明かさないが、映画のクライマックスで二人のアニメ作家の作品思想は互いに共鳴するように交差するのだ。
6月2日の夜に行われた『ハケンアニメ!』オンラインイベントで、映画の中で女性スタッフを演じた俳優・声優の新谷真弓は、これが働く女性を描いた映画であり、その中で主演の吉岡里帆が『魔女見習いをさがして』で初監督をつとめた女性演出家、鎌谷悠に話を聞きに行くなど、献身的に演じた様子を力を込めて語っている。
新谷真弓が語る通り、『ハケンアニメ!』はポップな予告編のイメージとは裏腹に、女性と労働を描いた日本映画として出色の出来になっている。そして劇中で演出家として斎藤瞳が感じる苛立ちや疎外感は、どこかで俳優としての吉岡里帆が歩いてきた道とも重なって見える。
多数のCM契約を抱える人気タレントとして吉岡里帆を見れば、苛立ちや疎外など似つかわしくない、誰が見てもトップ芸能人の一人かもしれない。だが、吉岡里帆の場合には芸能人としての「魅力」が、役者としての「実力」の正当な評価を遠ざけてきたようにも見える。
モデルやグラビア出身と誤解されることもあるが、実は吉岡里帆は最初から演劇を志向して芸能界に入った俳優である。京都の進学校から大学に進学し、一時は書家をめざすほどの書道の実力がありながら演劇にのめり込んだ。
だが、彼女には書家の道を捨てて選んだ俳優の世界で、実力より先に甘い声と顔の魅力が注目されがちなところがあった。一躍その名を知られた坂元裕二脚本の名作ドラマ『カルテット』でも、吉岡里帆が演じたのはその魅力で世の中を渡る美女の役だった。