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「人生チョロかった」の呪縛

「人生チョロかった」ドラマ史に残る名作の最終回でそう高笑いする悪役を演じ切ったことは高く評価された。だが同時にそのイメージは、その後も呪いのように世間の視線を呪縛した。

 新人ケースワーカーを演じた『健康で文化的な最低限度の生活』など、社会的なメッセージを持つ作品にいくつも出演し、高い演技力を何度見せても、一般のイメージは次々と舞い込むCMで演じるコケティッシュなイメージに上書きされてしまうところがあった。

 映画『ハケンアニメ!』は、そうした俳優としての吉岡里帆のジレンマを、斎藤瞳という若い女性演出家に重ねて描くことに成功している。アニメの現場には昔から女性スタッフが多く、あからさまに女性だからと差別を受けたり、排除されたりするわけではないという。

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 だが同時に、若い女性であることで暗に甘く見られ、あるいは一方でアイドル的にメディアに消費されることもある。そうした曖昧な、見えにくいプレッシャーの中で溜まっていくストレスを、映画の中で吉岡里帆の演技は繊細に、雄弁に表現している。

©文藝春秋

 劇中に、現役若手声優の高野麻里佳が演じるアイドル声優・群野葵と、吉岡里帆演じる女性演出家が衝突する場面がある。アイドル声優・群野葵の発する決め台詞を別室で聴きながら、女性演出家斉藤瞳は深いため息をつく。高野麻里佳はそのセリフを、わざと下手に演じるような芝居をしているわけではない。それは声優にとってベストを尽くしたつもりの演技が、演出家の意図と食い違うというシーンなのだ。

 ファンの反発を招く可能性もありえるシーンだが、高野麻里佳も吉岡里帆も、そうしたリスクを背負いながらその場面を演じきっている。それは単に女性演出家とアイドル声優という物語の役を超えて、キャリア女性とノンキャリア女性の相互理解を描くような普遍的なシークエンスになっていた。

 それは人気声優でありながらあえてリスクの高い役を引き受けた高野麻里佳の勇気と、芸能界で時には色眼鏡で見られ、アイドル女優と侮られることもあった吉岡里帆の経験が交差したシーンだったと思う。