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松たか子45歳に デビュー後は「親の七光り」と常に言われて…理不尽すぎるバッシングを乗り越えられた“きっかけ”

6月10日は松たか子の誕生日

2022/06/10
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「女優界の中で一人孤島ですからね」

 このほか、一昨年に公開された映画『ラストレター』など、近年の出演作で彼女の演じる人たちは、いずれもそれぞれの作品世界のなかで年齢を重ねてきたかのような雰囲気を感じさせる。それはもはや演技の幅という技術的な域を超え、人間としての余裕がなせるわざなのかもしれない。

『ラストレター』(2020年)

 松が俳優としてスタートしたのは、小劇場出身の劇団や演出家がプロデュース公演に重点を置くようになり、テレビや映画で活躍する俳優たちを盛んに起用し始めた時期にあたる。そのなかで松も、劇団☆新感線や野田秀樹のNODA MAPなどの公演に参加し、舞台経験を重ねていった。

 思えば、父・松本白鸚は、染五郎・幸四郎時代を通じて歌舞伎だけでなく現代劇やテレビドラマにも積極的に出演してきたパイオニアである。アングラ演劇出身の蜷川幸雄が1974年に初めて商業演劇に進出し、演出したシェイクスピア劇『ロミオとジュリエット』の主演も彼だった。後年、娘の松もまた『ハムレット』や『ひばり』といった舞台で蜷川演出の洗礼を受ける。『ひばり』の公演初日、劇場に観に来ていた父は、終演後に蜷川から「染さん、たかちゃん、いいでしょう!」と昔の呼び名で声をかけられ、感慨で胸がいっぱいになったという(※1)。

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『大豆田とわ子と三人の元夫』(番組公式サイトより)

『パ・ラパパンパン』を演出した松尾スズキもまた小劇場出身である。公演時の対談で松尾は《僕はアングラとかサブカルと呼ばれる孤島のような場所でずっと芝居を作ってきた》と語ったうえで、《松さんも女優界の中で一人孤島ですからね》、《松さんっていう島しかない》と彼女を評した(※4)。

松たか子の独特のポジション

 言われてみると、松はたしかに俳優の世界にあって独特のポジションにある。ライバルといえるような存在もちょっと思い浮かばない。まさに孤島である。

 もともと彼女は、子供のときから歌舞伎が大好きで、専門誌を愛読し、劇場にも足繁く通っては演目の細かなところまで記憶していた。戦後を代表する立女形・中村歌右衛門(6代目)の花魁姿にも魅力を感じたというから、かなりの通である(※5)。そんな女優はやはり(少なくとも同世代には)皆無だろう。

 再び島にたとえるなら、根っからの芝居好きで俳優になる土壌を持っていた彼女は、父という太陽の光を浴びつつ、それを耕し続けることで多様な役柄が共存する豊かな生態系を育んだ。ここから今後さらにどんなものが飛び出すか、楽しみである。

※1 松本幸四郎(9代目)・松たか子『父と娘の往復書簡』(文藝春秋、2008年)
※2 藤間紀子『高麗屋の女房』(毎日新聞社、1997年)
※3 「おかねチップス」2021年7月19日配信
※4 『AERA』2021年11月15日号
※5 『週刊朝日』1997年12月5日号

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松たか子45歳に デビュー後は「親の七光り」と常に言われて…理不尽すぎるバッシングを乗り越えられた“きっかけ”

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