過去の薬物問題を報じた最大の理由
なぜ16年前の事件を改めて報じなければならないのか――。ドーピング違反事件と前後して、新庄監督は球界引退を表明。2006年シーズンを最後に球界を去っている。バリ島で絵を描いている新庄剛志氏であれば、わざわざ過去の出来事を報じる必要はなかった。薬物問題を報じた最大の理由は、今シーズンから日本ハムの監督としてグラウンドに立つことになったからだ。指導者として、監督として、球界に戻るのであれば、ドーピング違反というスポーツパーソンとしての根幹にかかわる問題は、時が経っても決して見過ごしてはならないし、できない問題のはずである。
薬物で揺れたメジャーでは、1998年に当時のメジャー記録となる70本塁打を放ったマーク・マグワイアが、引退後に現役時代の薬物使用疑惑で批判の矢面に立たされた。2005年にはメジャーリーグのドーピング問題を調べる議会に証人喚問されたが、「過去について話す気はない」と事実上の“証言拒否”をするなど頑なに使用を認めなかった。
自分の口で事実を明らかにするべき
しかし2010年に古巣のセントルイス・カージナルスの打撃コーチに就任するにあたり、「愚かな過ちだった」とステロイド使用を告白。謝罪した上で、現場復帰を果たしている。指導者になるということは、自分の現役時代も含め、それだけの責任を背負うということである。
新庄監督は、「文春オンライン」に記事が掲載された後、報道陣の前に姿を見せていない。現段階で説明責任は果たされていないと言わざるを得ない。
今回の原稿は新庄監督誕生で盛り上がるプロ野球界に水を差すために書いたものではない。もちろん新庄監督に辞任を求めるものでもない。
ただファンがプロ野球に求めるのは、選手たちが正々堂々と真剣勝負をすることである。世界的なアンチ・ドーピングのうねりがある中で、過去のこととはいえアンフェアな疑惑に蓋をすることは、プロ野球の将来に負の遺産を押し付けることになると考えるからだ。
ファンの間では「16年前の話であり、大した問題ではない」と言う声もあるかもしれない。ただ、大した問題でないのならば、むしろ堂々と事実を明らかにするべきだろう。なぜあのとき球団の求めに応じてサプリメントを提出しなかったのかも、自分の口から説明すべきだ。その上で今後、監督としてドーピング問題にどう向き合っていくのかを語って欲しい。そうすれば若い選手にとっても、野球界にとっても、大きな意味を持つはずである。
新庄剛志「薬物使用」の過去