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濃厚なベトナム成分が漂う

 マソキッズの向かいにはベトナム食材スーパーがあり、その隣には「THIEN KIM SPA(ティエンキム・スパ)」という美容サロンがあり……と、今里の街のなかでもこの一角のベトナム成分はかなり高い。ちなみにTHIEN KIM SPAは、繁華街にある日本人のおじさん向けの怪しげなアジアンエステなどではなく、同胞の女性向けの健全な店だ。

 店舗の前には「Make up tiệc(パーティーメイク)」が5000円、「Make up cô dâu cưới(ウェディングメイク)」が1万5000円、1ヶ月間のフルスキンケアが6万円などとベトナム語で案内が出ていた。これらの日本での相場は知らないが、それなりの金額ではあるだろう。生野区のベトナム人女性たちも、美を追求するために安からぬ投資をおこなっているらしい。

大阪城公園でウェディングフォトを撮影していた在日ベトナム人カップル。人口が増えることで、結婚や出産などのライフイベントを日本で迎えるベトナム人も増えている。2022年4月12日。撮影:Soichiro Koriyama

 店の扉を開けてみると、数台の施術ベッドとさまざまな美容マシン、さらにテレビ局のメーキャップ室並みにメイク道具が揃っている化粧台が目に入った。店長らしき小柄な女性が出てきたが、日本語がほとんど話せないようで、コミュニケーションが取れない。

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 私たちが困っていると、向かいにあるマソキッズからヴァンさんが飛んできて、勝手に通訳してくれた。例によって、もちろん取材はOKだそうである。

一流メイクアップアーティスト、今里で起業

 THIEN KIM SPAの店長は、チャン・レさん。リゾート地で知られる南部のニャチャンの出身で、年齢は36歳だというが、美容のプロであるだけに外見はかなり若く見える。

 店内を案内してもらうと、2016~2017年ごろの年号が書かれたトロフィーや賞状やタペストリーがずいぶん多くあった。実はレさんはベトナム国内では名の知られたメイクアップアーティストで、特にホーチミン・シティのメイクアップコンテストでは多数の受賞歴があるという。

男性だけで入るには躊躇するガーリーな空間で微笑むレさん。隣店のヴァンさんが通訳に来てくれてよかった。2022年5月25日。撮影:Soichiro Koriyama

 母国で華々しいキャリアを積んでいたレさんは、やがて夫が日本で働くことになり一緒に来日。だが、言葉の通じない異国の生活とはいえ、仕事もせずぶらぶらとしているのは性に合わず、自分のスキルを活かして同胞向けの美容サロンを開業することにしたらしい。

 美容マシンは日本や韓国のものが多く、金額を尋ねてみたところそれなりに高額だった。レさんは日本語ができないため、お客は当然ながらベトナム人ばかりだ。若い女性が多いが、なかには肌をきれいにしたい男性のビジネスパーソンや留学生も来るという。いまの生野区では、ベトナム人のこんな産業も商売として成立してしまうのである。