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 他方では、クリスマスやバースデーになると、ジプシーのリクエストに応じてゲーム機やパソコンを与えるなど、気前のよい面も見せていた。もっとも、これらもロッドが贈ったものを、自身が買い与えたかのように演じていたのだが、真相が娘に告げられることはなかった。

 つまりはアメとムチを巧みに使い分けながら、娘をコントロールしていたわけである。

 それでも成長とともに、ジプシーが心のなかに抱える疑念や不機嫌は、日増しに大きくなっていった。

 果たして母親が言っていることは本当なのか? このまま母親を信頼していていいのか?

 やがてジプシーは、母親が眠りについた後、真夜中に立ち上がって部屋中を歩き回り、「神様、どうか私をここから連れ出してください」と祈るようになる。

 真夜中に訪れる束の間の自由時間。ジプシーはこの時間を生かして、パソコンを通じて外の世界とつながることを覚えた。それは歳頃になったジプシーの心を解放させてくれる素晴らしいものだった。

 2011年にジプシーは一度、オンラインで事前に知り合った男性と結託し、母親からの逃亡を図っている。しかし、ディーディーはジプシーの居場所をすぐに特定し、彼女を連れ戻した。怒り狂ったディーディーは帰宅後、ジプシーに与えていたパソコンをハンマーで破壊。そして、「今度逃げたら、あんたの指をハンマーで叩き折るわよ」と脅し、その後、2週間にわたってジプシーをベッドに縛りつけたのだった。

 しかしそれでも、ジプシーの自立心と外界への好奇心は止まらない。

 ジプシーはやはり母親が寝静まった後を見計らい、こっそりとインターネットを使って外界との接触を図っていた。

 そうして2013年、オンライン上でディーディー殺害の共犯者であるニコラス・ゴデジョンと知り合った。事件のおよそ2年前のことである。

「私の母を殺して」

 オンライン上でのこととはいえ、ニコラスとの密会はジプシーにとって楽しいひとときだった。やがてそれは恋心へと変わり、2人のロマンスは次第にヒートアップする。やり取りされる話題も、結婚や、未来の2人の子供の名前にまで発展。さらに、ニコラスにはSM趣向があったことから、セクシャルな会話や写真の交換もするようにもなった。

 そして2015年。ジプシーは「映画が見たい」と駄々をこね、ディーディーに映画館へ連れて行ってもらう。

 そこでジプシーは「トイレへ行ってくる」と断って母のもとを離れることに成功するのだが、本当の目的は、オンラインで知り合ったニコラスと密会することだった。

 初めて対面した2人はそこで逢瀬を楽しむが、すぐにディーディーに居場所を突き止められ、引き離されてしまうのだった。

 しかし、互いに相手を運命の人と信じて疑わない2人は、こうした障壁にいっそう恋心を燃やすようになる。

 ある日、ニコラスはジプシーにメールでこんなメッセージを送った。

「君のためならなんでもするよ」

 するとジプシーは、即座にこう返した。

「だったら、私の母を殺して――」

 この言葉を真に受けたニコラスは、ジプシーを母親から救い出そうと燃え上がり、殺害計画を練り始めた。