悪いのは被害者の母親か、それとも加害者の娘か? 見るものを複雑な気持ちにさせる事件が、2015年に起きた「ディーディー・ブランチャード殺害事件」だ。殺害された母親は娘を束縛し、給付金を得るために必要のない薬を飲ませ、意味のない手術を受けさせていた。そして長年、病気を理由に車椅子生活を強いられ、社会と隔絶した娘はいかにして母親に復讐を遂げたのか?
その顛末を、犯罪大国アメリカで実際に起きた凶悪殺人事件の真相に迫る、同名の犯罪ドキュメンタリー番組を書籍化した『トゥルー・クライム アメリカ殺人鬼ファイル』(平山夢明監修)より一部抜粋してお届けする。(全3回の2回目/#1、#3を読む)
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献身的な母はなぜ殺害されたのか
筋ジストロフィーをはじめ、様々な病に侵され、車椅子生活を余儀なくされている娘ジプシー・ローズ・ブランチャードと、傍らで彼女を献身的に支える母親、ディーディー・ブランチャード。
母娘が共同運営しているFacebookページには、髪の毛がなく、チューブにつながれた車椅子の少女ジプシーが、母と一緒に幸せそうに微笑んでいる写真で埋め尽くされている。生い立ちこそ不幸でも、2人の間には確かな家族の絆が感じられ、健気に病気に立ち向かうその姿に心を打たれた人々からは、多くの募金やお見舞金が寄せられていた。
ところが、2015年6月。母親のディーディーが自宅のベッドルームで死んでいるのが発見される。遺体は死後数日経っており、刺し傷から流れ出た血だまりに顔を突っ伏した、無残な状態だった。
警察は同居しているはずの娘ジプシーの姿を探したが、どこにも見当たらない。おまけに自宅には、車椅子が残されたままだった。
彼女は事件に巻き込まれ、連れ去られてしまったのか? ジプシーの安否が危ぶまれた。
ところが数日後、彼女の居場所を突き止めた警官たちは、ジプシーの姿に我が目を疑った。金色のウィッグを身に着けた彼女は、誰の支えもなく自分の足でしっかりと歩いていたのだ。
いったい、誰が被害者で、誰が加害者なのか――。ここから明らかになった悲しき母娘の物語に、全米は驚愕することになった。