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「おまえ、英語も話せないの? バカなの?」6年間も英語を学んだ日本の女子高生が、アメリカ留学中に突きつけられた“苦しい現実”

『ニューヨークが教えてくれた “私だけ”の英語 “あなたの英語”だから、価値がある』より #1

2022/06/21
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「ストレート」と英語で伝えても通じない

 思わず道路を指さし、「ストレート!」とつぶやくと、彼女は What? と首をかしげている。

 What did you say?   I donʼt understand what youʼre saying.
 なんて言ったの?何、言ってるんだか、わかんないわ。

「ストレート」は英語でも、もちろん「ストレート」のはずなのに。 

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 何度、言い直しても通じない。

岡田さんが思わず「ストレート!」と指さした道路 (著者提供)

 その時、カーステレオから、ハリー・ニルソンの名曲「ウィズアウト・ユー」(Without You)が流れてきた。当時、日本でつき合っていたボーイフレンド(今は夫)と、よく聴いた歌だ。

I canʼt live if living is without you. / I canʼt live, I canʼt give any more.
生きられない あなたのいない人生なんて もう耐えられない 耐えられないの

 私はここに、これから1年近くもいるのか。飛行機を2度も乗り換え、こんな遠くへ飛んできてしまった。

 ホストファミリーの家に着くと、ホストマザー(以下、マム)が言った。

「日本のお母さんに電話して、無事に着いたと伝えてあげて」

 受話器の向こうの母の声は、まるで隣の部屋にいるようにはっきり聞こえた。

「心配してたけれど、無事に着いたのね」

「うん」と答える私の声は、涙で震えている。

 反対を押し切って英語の世界に飛び込んでしまったことを、すでに後悔していた。

10か月滞在したホストファミリーの家 (著者提供)

「英語わかんないよ。日本に帰りたいよ」

 ウィスコンシン州の小さな町で耳にする英語は、私が中学・高校で6年間、習ってきた英語とはまったく別物のように聞こえる。話すスピードが、ものすごく速い。しかも、1つひとつの単語を、私が学校で習ったように丁寧にはっきりと発音しない。

 単語と単語を続けて、しかもやけに鼻にかけたような音を出したり、母音を聞き慣れない音で発音したりする。

 Could you please speak more slowly?
 もっとゆっくり話して。

 そう頼むと、単語と単語は続けたまま妙にゆっくり話すので、もっとわかりにくい。

 私は日本の公立中学校で、文法と読み書き中心の授業を受けた。そして「英語の青山」といわれた青山学院の高等部に進学。ネイティブ・スピーカー(以下、ネイティブ)のアメリカ人教師が英会話を教え、さらに私は選択科目でも英会話を取っている。 

中学時代に使用していた教科書とノート。岡田さんが英語の勉強に打ち込んでいた様子が伺える (著者提供)

 英語が大好きで、得意だった。学校帰りに週2度、英会話学校にも通っていた。

 それなのに。

 ひとりぼうっとしていると、隣に住んでいた同学年のメアリージョーが私に声をかけ、彼女が自分で答える。

 Mitz, are you bored?  I think so.
 ミッツ、つまんないの? そうなんだよね。

 先生や友だちはミツヨという私の名前が覚えられず、ミッツやミッツィと呼んだ。

 つまんないよ。英語わかんないよ。日本に帰りたいよ。

 心のなかでそう叫んでいた。でも首を横にふり、作り笑いするしかない。

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