私がウィスコンシン州の高校に留学した時、ホストファミリーのダッドは、母が日本から送ってくれた乾燥昆布の臭いをかいで、「これ、オレの靴下の匂いと同じだ」と顔をしかめていたのに。
ニューヨークの紀伊國屋書店の前には、開店前に長蛇の列ができる。英語版だけでなく日本語版の漫画、日本のグッズを手に入れようと、辛抱強く待っている。
ニューヨークをはじめ世界じゅうに展開している、日本の100円ショップのチェーン店も、大人気だ。
彼らの「夢の国」に住むあなたと、話したくてうずうずしている人が、世界じゅうにたくさんいるのだ。
I canʼt speak English.
英語は話せません。
そう言って、コミュニケーションを断ってしまうのは、あまりにもったいない。
「おかえりなさい」は最高のおもてなし
「アメリカ人は田楽を食うけぇ。朝はハムエッグがいいずらぁ?」
何年か前に、山梨に住む外国や英語とは無縁の叔父から、立て続けに電話がきた。
2世帯住宅に住む息子の家に、アメリカ人が数日、ホームステイすることになり、てんてこまいらしい。
「食事は何を出せば、いいだ? 英語なんかいっさらしゃべれんから、困るずら」
当日、叔父は電話に出るやいなや、「グッドモーニング!」と陽気に挨拶する。
「いっさら通じんずら。ほんでも、楽しそうに笑ってるじゃん。今、昇仙峡に行ってるずらが、帰ってきたら『おかえりなさい』はなんて言うだ?」
Welcome home. / Welcome back.
旅行などで不在だったり、故郷に戻ってきたりした時に、こう言って迎える。毎日、帰ってくる人には言わない。しかも、叔父のところは、赤の他人の家だ。
あえて英語にしたいなら、Oh, youʼre back. / Youʼre home. になる。
「おかえり」の温かさはない。山梨弁なら「帰ってきたけぇ?」だろうか。私は叔父に伝えた。
Hi. How was your day? / Did you have a good day?
今日はどうだった?/楽しかった?
そんなふうに声をかけるほうが自然よ、と叔父に伝えた。
帰ってくる側の最初のひと言は、「ただいま」の代わりに、Hi. / Hello. といった、いつもと変わらない挨拶であることが多い。
「ただいま」「おかえりなさい」では、1往復のやりとりで終わってしまうかもしれないけれど、「今日はどうだった?」と聞けば、会話が続く。
「会話が続いても、困るだ」
そう言いながらも叔父は、電話口で何度も練習していた。
「ハーイ、ハウ・ワズ・ユア・デイ? ディドゥ・ユー・ハヴ・ア・グッド・デイ?」
考えてみれば、日本語の「おかえりなさい」はなんとすばらしい言葉なのだろう。
遠い異国で見知らぬ人の家に泊まり、戻ってくれば、そう迎えられる。まるでその家族の一員のように。最高のおもてなしだ。