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 この中心的な課題を、若き大統領マクロンもメルケルもよく分かっている。問題は、分析の共有が共通の施策につながるかどうかである。

 まず、この2者の関係は釣り合っていない。マクロンがメルケルを必要とするほど、メルケルはマクロンを必要としていないのである。というのも、マクロンはフランス経済を立て直し、4年後の大統領選に臨む必要があるが、そのためには自国の構造改革を進めるだけでなく、ドイツ主導の緊縮財政に風穴を開け、新規投資を呼び込み、雇用の改善を図らねばならない。これにはドイツの政策転換が必要であるが、メルケルは好調な経済を抱えているうえ、おそらく5選にはこだわっておらず、進行中の連立政権交渉次第ではやり過ごすことも可能だからだ。逆に、自身の政治的な遺産づくりの一環として、欧州統合を前に進めようとするかもしれない。まだどう転ぶか分からないのが実情である。

 2018年の最大の見ものは、このユーロ圏改革の行方であり、それに深くかかわるドイツの内政状況といえよう。

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ユーロ圏改革の行方は…… ©iStock.com

テロ対策はいまだ現代進行形の問題

 また、トランプ大統領の下で米欧関係がいっそう希薄化したのを受け、欧州は独自防衛の動きを強めるだろう。すでにその方向は昨年末に、「常設軍事協力枠組み(PESCO)」を打ち出したことにより明らかだが、今年は軍事調達の共通化を含め、共同防衛を具体化してゆくことになる。ただ、この分野での統合は、国益が深く絡み、相違が顕在化しやすい。ゆえに、歩みは進むものの、ゆっくりとしたものにとどまるだろう。

 さらに、国境を横断する形で計画・遂行されるテロを抑え込むには、内務警察協力など一層の欧州統合が必要だが、各国の中に欧州懐疑勢力を抱えるなかで、それを進める体制になっているか心もとない。ひとたび大規模テロが起きれば、ますます加盟国は内向きになるだろう。IS(イスラーム国)が崩壊したのち多くのジハード主義者が出身国に帰還したはずで、その行方とともに、テロ対策はいまだ現在進行形の問題なのである。

 これらすべてにかかわるのが、統合の方法である。緊縮財政からの脱却を共同「投資」のような形で行うにしても、防衛(調達)統合するにしても、イギリスを除く27か国すべてが同様に統合に臨めるか不明である。預金保険の共通化や財政の移転は共同体意識が強くなければなしえないことだし、その他の分野でも中心国と周辺国で利害の分岐が大きい。

マクロン大統領(左下)とメルケル首相 ©getty

 そこで浮かび上がるのが、中心国が先に統合を進める先行統合である。これは、EUですでに通貨統合などの分野で用いられている方法だが、それを体系的に推進すると、加盟国を1部リーグと2部リーグに分けることにつながる。あるいは中心国からすると、周辺国がそうした2部リーグ扱いをよしとしないのならば、中心国に合わせるべしという圧力の道具にもなる。その際、EU予算の配分の仕方を変え、EU方針にそぐわない国への支給を減らすという強硬手段に訴える場面も出てきうる。