朝ドラに合わせた露出戦略において、朝ドラで演じた人物のイメージを踏襲するか、もしくはまったく違うイメージでいくか、大まかに分けると2択がある。前者は保守的、後者は攻めているといえるだろう。松村の場合は保守と攻めのハイブリッドであった。『きのう何食べた?』と『恋マジ』は攻め、『ホリック』は保守。1作ずつ解説してみよう。
『きのう何食べた?』で演じた新人美容師・田渕は『カムカム』の稔さんとはまるで違う、極めて現代的な青年であった。軽味のある雰囲気で稔と同じ俳優だと思わなかったという声も筆者はいくつか耳にした。
『ホリック』は原作CLAMP、監督蜷川実花という華麗なるビジュアル世界で一見攻めた役のようだが、松村が演じた百鬼目は寺の息子で弓道の達人。黒い着物をぴしっと着た姿が決まり、凛々しい日本男児的だ。しかも、彼の射る矢には霊力のようなものがあり、彼のそばにいると邪悪なものが祓われる。この圧倒的な清らかさは稔さんと通底したものがある。
立礼の際、腿に手を置いて上半身を前傾する、その礼儀正しさに稔さんを重ねてしまう観客もいたに違いない。この礼儀正しさは松村北斗に備わったものなのだろう。『カムカム』にもあったお祭り屋台のシーンもあって、相手役が上白石萌音から神木隆之介に代わり、それはそれでまたいい雰囲気だった。
『恋マジ』で見せた“稔さん”とは違う顔
『ホリック』では稔さんロスが多少埋められたものの、もう1作の『恋マジ』がはじまると「稔さんがいない」という声がSNSで散見された。放送開始前の情報によると複数の女性とつきあうようなチャラ男というものでちょっと不安はあった。
実際はじまるとその情報どおり。おしゃれなレストランのイケメン店員・長峰柊磨(松村)は彼目当ての女性客が多い。広瀬アリス演じる主人公・桜沢純に迫る姿は安子だけを大事にした節度ある稔の面影はまったくなかった。
『カムカム』以前から松村を応援してきたファンからしたら、これまでも様々な役を演じてきているし、SixTONESは高身長でセクシー、ワイルド、ヤンチャ、オラオラ系な要素もあるグループ。そのなかでは口数少なめとはいえ、熱っぽい目線を観客に向けて歌い踊る松村は、稔さんだけでは決してないのである。
とはいえ、稔さん効果の大きさも手放してはもったいない。そのせいなのか、もともとそういう予定だったのか定かではないが、柊磨はじょじょにキャラ変していくのである。