「切れ! 今すぐ! ここから先は外観、地形から場所が特定されそうな写真は一切だめだ!」
「……」
1度うなずいた。
ニッサンはハルキウ中心部から一路北上した。何度も足を運んだ、被害が最もひどかったサルトゥフカ地区あたりを過ぎると人もクルマの姿もぷっつり消えた。
舗装道路を猛スピードで疾走
黒焦げのガソリンスタンドや大破したロシア軍車両を過ぎた後にチェックポイント(検問所)がある。このルートも何度か挑戦した。今はサルトゥフカ地区より、さらにロシア国境に近いこのさきのツルクニ村やかつてロシア軍が占拠していた村々のほうがロシア軍の攻撃目標になっており、連日激しい砲撃にさらされている。何度か挑戦したが、この検問所で門前払いをくらわされたこともあれば、途中ロシア軍の空襲を警戒し引き返すことを命令されたり、たった一度だけだが、現地のジャーナリストといっしょに国境近くのスラチネ村まで行けたぐらいである。それ以来ロシア軍の攻撃がはげしくなり、特別な許可がない限り、このチェックポイトを我々は通過できないはずであった。
が、きょうはドローン部隊のエスコートがある。かくして、しっかりパスポートまでチェックされたが、無事チェックポイントは通過できた。後この先にはチェックポイントはもはやないはず、あるのはロシア軍と向かい合う最前線だけである。
ニッサンはまたしても猛スピードで舗装道路を疾走した。そして国境近くのとある集落に入るや、舗装道路からはずれ、両脇に、なんの特徴もない農家が立ち並ぶ農道を走りつづけ、とある民家の前の藪にすべりこんだ。スラーバは我々を降ろしたあとはバラクーダ(迷彩網)でさらにニッサンを覆いかくしたあと、その前の民家に案内した。
民家の窓を黒いビニール袋で完全に目張り
ほんまになんの特徴もない2階建ての民家である。何年も人が住んでいないかのように、雑草が生い茂っていた。西側のロシア国境と反対側の裏口が出入口であった。
「ようこそ!」
スラーバが両手を広げ歓迎のポーズをとってくれた。
中はまさに建築中の日本の普通の民家のサイズだった。1階には床もないが、2階には木製の簡易階段がつづいていた。
我々3人以外誰もいないようだった。
目が慣れてくると異様な室内に気づいた。窓がないのである。いやあるのだが、黒いビニール袋で完全に目張りされ一切なにも見えない、外光も入らないようになっているのである。