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星空を見上げ、星座の逸話で盛り上がる

 20畳ぐらいのかなり広いダイニングルームと居間か、かなりの資産家……いや地元実力者か庄屋さんみたいなのがオーナーやろか思うたら、外国人が家主であった。宿舎も同じオーナーであった。オーナーはこの戦時下も国へ逃げ出さなかったというから、よっぽどの事情があったのであろうが、今も1階をウクライナ軍へ提供し自分は2階で肩身せまく……というほどではないが、不便な生活に耐えていた。食事は各部隊、時間が空いた時にここダイニングルームを訪れ、スープなどを温めなおしたり、パスタをゆでたりしたあとは、あっという間に食い終えていく。

 不肖・宮嶋もご相伴にあずかったが、見た目も味もなかなかであった。もちろん司令部に来れないほど、ロシア軍の攻撃が激しくなったときも各宿舎で非常食の備蓄はあった。夕食を終えるとみなすぐに数十分かけて歩いて宿舎に戻る。

 ホントに星明りだけで歩ける。皆地雷原がこの辺りにはないと知ってか、星空を見上げている。小隊のほぼ全員が英語を話し、宿舎への帰路は星座の逸話で盛り上がった。

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「おい! シゲキ! 北はどっちだ?」

 皆ここでは「日本人」と呼ぶのではなく、すぐ名を覚えてくれた。

小隊宿舎中庭にて。地雷原注意の警告板と一緒に。61歳の誕生日を一人で祝って 撮影・宮嶋茂樹

枕元にはカラシニコフ…暴発でもしたらどないするん

 さすが歩兵としての基本サバイバル訓練済である。しかしこっちもここへ来た時からロシア国境が東側という敵側方向がどっちなのか確認している。

「それじゃあカシオペア座はどこだ?」

「小熊座は? 今日ははっきり見えるぞ」

「それよりこの中にもイーロン・マスクの打ち上げたスターリンクの衛星があるのか? どれや?」

「……」

ドローン情報小隊による着弾観測で目標に命中。国境付近からまるでゴジラを思わせる煙が上がる 撮影・宮嶋茂樹

 宿舎に帰るや皆、半長靴を脱ぎ、すぐに2階に上がっていった。2階は小部屋が二つ、そこにマットと寝袋を並べ雑魚寝である。ユルゲンのみ廊下で一人寝だが、皆ホンマに枕元にカラシニコフに弾倉はめたまま立てかけている。これじゃあ寝相悪い奴に蹴とばされて顔面に倒れてきたら血まみれ……いや暴発でもしたらどないするんであろうか? 不肖・宮嶋も最前線には荷物は最低限にした。電源も水道もないと思うていたので、充電器も洗面用具もなしである。

 もはややることは何もない。すでに歩哨を残し全員が寝袋にもぐりこんでいる。5月になってもこの辺りは夜は冷える。すぐにあちこちからいびきのうなりがあがりはじめた。