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 警察当局はこうした組織運営を「弘道会支配」「名古屋支配」と称していた。警察当局の幹部は、「先代の時代と違い6代目になってからカネがかかるようになってきたことで、直参たちは苦しくなってきたのだろう。さらに、人事でも弘道会優先となったのが実態だった」と指摘していた。

 こうした不満が分裂という形で噴出したのだ。

分裂後、対立抗争事件が起きることが危惧されたが…

 離脱グループに名を連ねたのが、5代目山口組時代の中核組織が多かったことも警察当局をも驚かせた。離脱グループは5代目組長の渡辺芳則を輩出した「山健組」や、5代目山口組若頭だった宅見勝が結成した「宅見組」など5組織を中核とした13組織だった。

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 6代目山口組の動向に詳しい指定暴力団幹部が分裂の実態について解説する。

「神戸山口組は親分の盃を受けながら、それを蹴って出て行った。これは逆盃だ。謀反だと後ろ指をさされるどころか、厳しく非難されることだ。ヤクザの世界では決して許されない」

 当然、分裂後にはすぐさま対立抗争事件が起きることが危惧された。

©iStock.com

 警察庁長官の金高雅仁(当時)は会見で、「どのような事態が起ころうとも市民生活の安全を期する」と強調。「今回の離脱動向を捉え、山口組をはじめとする暴力団の弱体化、壊滅に向けた取り組みを一層強化する」と述べた。

 しかし、しばらくは不気味なほどの平穏が続いた。一部で散発的な衝突はあったが、本格的な対立抗争事件の続発はなかった。

伊勢志摩サミット終了後に鳴り響いた「大きな音」

 だが「なにが理由かは分からない」(警察庁幹部)が、分裂翌年の2016年2月以降は事件が続発。福井県敦賀市の神戸山口組正木組事務所への銃撃事件が「号砲」となったのか、抗争事件が毎日のように発生した。相手の事務所への拳銃発砲、火炎瓶の投げ込み、繁華街での集団での乱闘などが連日、全国各地で発生した。

神戸山口組の井上邦雄組長 ©️時事通信社

 全国から寄せられる抗争事件の報告に国家公安委員長の河野太郎はいら立ちを隠さなかった。会見で、「対立抗争状態と言わざるを得ない。市民に迷惑がかかることがないよう、しっかりと対立を抑え込みたい」と力を込めた。

国家公安委員長だった河野太郎 ©文藝春秋

 分裂に伴う対立抗争が続くなか、2016年4月、熊本地震が発生し276人が死亡、約2800人が負傷する甚大な被害となった。さらにこの年の5月には伊勢志摩サミットの開催が決まっており、警察はテロ対策などにあたることになっていた。

 6代目山口組分裂、熊本地震、伊勢志摩サミットと全国警察は3つの課題への対応を求められたのだ。