下品な姿のコラージュさえも“遊び心”
イギリス王室と国民の心の距離の近さは、ロンドンの街を歩いているだけでもすぐに感じることができます。土産物屋にはエリザベス女王を筆頭に王族をモチーフにした商品が並び、中には下品な姿にコラージュされた絵葉書までありますが、それさえ遊び心として国民、王室の双方から受け入れられているのです。
イギリス王室の寛容さは、マスメディアに対しても同様です。チャールズ皇太子はかつて開いたメディア向けのレセプションで、「君たちには散々なことを書かれているね」と笑いを取った後に「だけど、君たちから何も言われなくなったときのほうが深刻だ」と発言して国内外からその見識を称賛されました。
バカンス中のキャサリン妃がプールで盗撮されるなど、明らかにラインを超えたごく一部の例外を除いて、英王室の広報戦略は「マスメディアと二人三脚でやっていく」というスタイルを貫いているのです。
ダイアナ事件でエリザベス女王が受けた壮絶なバッシング
しかしイギリス王室がこのようなオープンな広報戦略を取るようになったのはここ20年ほどのこと。つまりイギリス王室のオープンさは伝統ではなく、時代に合わせて変化しようとする関係者の努力によって作られたスタイルです。そしてイギリス王室が広報戦略をイチから練り直す必要に迫られる転機となったのが、1997年のダイアナ事件でした。
1981年にエリザベス女王の長男であるチャールズ皇太子と結婚し、その美貌とファッションセンスでイギリス国内どころか世界中でフィーバーを巻き起こしたダイアナ。
しかしチャールズ皇太子との結婚生活は数年で破綻し、1996年に離婚。そして1997年にパリで交通事故でダイアナが亡くなった際のイギリス王室の対応が、国民の怒りを買いました。ダイアナはすでに王室を離れているとして事件の無視を決め込んだことで、女王が国民から猛烈なバッシングを受けたのです。自分よりもダイアナの方が国民から支持されていたことに、女王はおそらくこのとき初めて気づいたのでしょう。
ダイアナと王室の「差」はチャリティー活動にも現れていました。イギリス王室は250年前からチャリティー活動について「慎ましくやるべき」というスタンスを維持してきました。しかしダイアナは離婚前から大々的なチャリティー活動を展開し、それまで王室に興味がなかった人たちからも支持され、ダイアナが出席するかどうかでチャリティーの支援額が大きく左右されるようになったのです。
中には「王室の中でチャリティーに力を入れているのはダイアナだけじゃないか」と感じる人さえいたようです。