2017年、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ビジネス・政治部門の第2位は、こちら!(初公開日:2017年7月18日)。
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Q 北朝鮮のミサイル発射。どこまで危機意識を持つべきでしょうか?
ICBM発射など、北朝鮮の武力による威嚇が繰り返されています。いまに始まったことではないですけれど、私たちはどこまで危機意識を持つべきでしょうか。(40代・女・主婦)
A このところテレビで北朝鮮のミサイル発射情報があったときの対処法の政府広報が流れています。心配になるのは当然ですよね。
この政府広報が東京都議会議員選挙の最中に始まったことには驚きました。選挙中に政府として危機を煽ろうとしているように思えたからです。ここで私が思い出したのは、我が故郷(長野県)の先輩ジャーナリスト・桐生悠々です。
信濃毎日新聞の主筆だった桐生は、1933(昭和8)年8月に実施された「関東防空大演習」の直後、「関東防空大演習を嗤う」という社説を執筆しました。
このとき東京を中心に関東地方では、敵機による空襲があったときに備えた大規模な防空演習が実施されました。
桐生は、そもそも敵機を首都上空に迎え撃つ状況になること自体を「我軍の敗北」と批判しました。
敵機を迎え撃つことになったら、軍を総動員しても討ち漏らす敵機が出て、爆弾が投下されるだろう。そんなことになったら、大きな被害が出るというわけです。
北朝鮮からミサイルが発射された場合、政府がどのような対応を取り、私たちにどのように知らされるのかを知ることは必要です。でも、それで不安を募らせてしまっては、北朝鮮の思うつぼでしょう。北朝鮮は、「日本も攻撃対象だぞ」と脅すことで、日本国内に「北朝鮮と事を構えるのではなく、友好関係を築くべきだ」という世論が生まれるようにしようとしているのですから。
肝心なのは、ミサイルを撃たせないことなのです。
ここは冷静になって、北朝鮮が日本に向かってミサイルを発射する状況を考えてみましょう。
もしミサイルが日本に着弾するようなことがあれば、日米安保条約に基づき、米軍が北朝鮮に反撃します。もし日本にある米軍基地が狙われたら、安保条約に関係なく、米軍は個別的自衛権を発動して北朝鮮を攻撃します。
平壌の街に米軍のミサイルが飛んでくることを考えたら、北朝鮮がいきなり日本だけにミサイルを発射することは考えられません。
北朝鮮が核やミサイルの開発に血道を上げているのは、アメリカが怖いからです。となれば、北朝鮮が他国を攻撃する場合、まずは米軍を対象にします。日本海に展開している米軍の空母やイージス艦、潜水艦です。と同時に、韓国内にある米軍基地です。
韓国内にある米軍基地を攻撃すれば、韓国軍も反撃しますから、韓国軍基地も攻撃します。
その次は、北朝鮮に反撃する戦闘機や爆撃機が飛び立つであろう日本の米空軍基地でしょう。
日本の自衛隊には、北朝鮮に届くミサイルがありません。北朝鮮を攻撃して戻って来られる戦闘機も爆撃機もありません。ですから、北朝鮮は、「日本の自衛隊に攻撃される」という危機感がありません。攻撃の優先順位でいえば、日本にミサイルを発射する可能性は低いのです。
政府やマスコミによる危機の煽りに惑わされず、まずは冷静に分析する力を身につけましょう。
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