人気VTuber事務所「にじさんじ」を運営するANYCOLORが6月8日に東証グロース市場に上場し、一時は2700億円を超える時価総額を記録した。時価総額で企業価値を計るのはITバブルを経験した者ならば警戒するところだが、かつてメディアの王だったフジテレビの持ち株会社フジ・メディア・ホールディングスを上回ったというニュースは一定の年齢以上の投資家にはインパクトがあるのだろう。
ソーシャルゲーム大手のDeNA(6月24日時点で約2326億円)や、YouTuberレーベル会社のUUUM(同約283億円)と比較しても、ANYCOLORに対する市場の評価は極めて高い。
一方で現在の時価総額が妥当か高すぎるかは意見が分かれるところだろう。ANYCOLORの直近の売上は102億円、営業利益は31億円だが、VTuber関連の市場規模がどの程度まで成長するかという予測はまだ確立されていない。2017年にCAヤング社が「YouTuber」について行った調査で、2022年に579億円という予想値があるくらいだ。一方でスマホゲーム市場は2021年には1兆円を超えている。
人気と好業績の理由は技術ではなく、マネジメント手法
VTuberというと全く新しい市場が生まれたように見えるが、実はVTuberの活動や運営会社の事業形態はさほど新しいものでも難しいものでもない。VTuberとVTuber事務所はテレビにおける芸能人とその事務所(マネジメント会社)の関係にあり、活動の舞台がテレビからYouTubeなどのネットメディアになっただけと考えればかなり近い。
主な収益はプラットフォームから分配される広告費と、企業とのタイアップ広告費。認知度が上がればリアル・VR空間でのライブイベントやグッズ販売にも進出する。
ANYCOLORは所属VTuber向けにiPhoneの専用アプリを開発・提供しているが、それもAppleの顔認識を絵文字にフィードバックする「Animoji」やゲームでよく使われる3Dアニメエンジン「Live2D」を組み合わせて、YouTubeへの配信をサポートするシンプルなものだ。開発部門の人数も30名程度と決して大きくはない。
つまり人気と好業績の理由は技術的なアドバンテージというよりも、コミュニティ運営も含めたマネジメントにあると見るべきだろう。