“トレパク疑惑”で大炎上した人気画家も…
Aさんによれば、こうした「トレース行為」を杉田氏はAさんの見ている前で何度も繰り返していたという。
しかし、こうしたトレース行為には大きな問題がある。過去には画家がプロの写真家の作品をトレースしたことが判明し、大きな事件になったこともある。
2022年1月、歌手のYOASOBIなどのアートワークを手掛けた古塔つみ氏に、著名写真家の作品をトレースしていたという疑惑が浮上。次々と“トレース元”となっていた写真が特定され、古塔氏のSNSは炎上。協業していた企業が商品展開をとりやめ、古塔氏が謝罪する事態にまで発展した。
著作権に詳しい弁護士の河野冬樹氏はトレースという手法の問題点をこう指摘する。
「線をなぞるという行為は、それ自体は創作的な性質を有する行為ではありません。そのような行為から生まれたものを、あたかも自らの創作活動の結果生まれたものであるかのように発表することが、著作権者の権利侵害になることはもちろん、自分で苦労をして描いたと思ってお金を払っているファンの方に対しても裏切り行為ととらえられ、そのため、著作権者以外のファンの方が怒って炎上するケースが多いように思います。
今回のケースは、写真が絵になったとしても、完全に同じ構図等をトレースした上で、元の写真の創作性がそのまま残っていれば二次的著作物になりますので、写真の著作権者が訴えれば、著作権侵害になる可能性はあると思います」
当然、古塔氏の一件に関しても知っていたAさんは、杉田氏の制作方法に疑問を感じたという。さらに、Aさんは杉田氏の倫理観を疑う出来事に遭遇したという。
「杉田さんは作品の“素材集め”などアシスタントの枠を超えた作業を私にさせたばかりでなく、実際に筆を使って色を乗せる“作画”についてもほぼ丸投げにしたのです。普段から彼の作画アシスタントとして、真っ白なキャンバスに素材をトレースして、6割から7割程度、完成させた状態の“下絵”を描くのが私の仕事でした。
スタッフはトレースから“下絵”までを1~2日かけて作業します。杉田さんはそうした作品に少し色を乗せたり、人物の顔を塗りつぶしたりするだけ。それで作品は“完成”です。こうした作品がオークションなどに出品され、杉田さんの作品として数百万円の値段で売られているんです」
前述の大阪・心斎橋で開かれた個展では、Aさんが“下絵”を描いたという作品が165万円で販売されていた。Aさんが取材班に示した、杉田氏に送った“下絵”の経過報告の写真と個展で売られていた完成品には、波の色彩などに変化はみられるものの、構図や色調はほとんど変わっていないように見える。