「一部をアシスタントさんにお願いすることがある」
また、スタッフに“下絵”を任せていることについては「勢いを大事にして短い時間で完成させる作品では、作業の説明をすれば出来そうな一部をアシスタントさんにお願いすることがある」と事実を認めた。
Aさんが描いたチューリップの絵をSNSに無断掲載したことについては、以下のように回答した。
「インスタグラムには、僕の作品はもちろん、いろいろな写真を投稿しています。例えば、展示会に来てくれたお子さんから貰ったお手紙や絵など、何気ない僕の日常の一コマとして素敵に思えたモノをストーリーに投稿することがあります。そのような感覚で、チューリップの絵を投稿したことがありました」
杉田氏はトレースはあくまで技法のひとつであるとの主張だった。
しかし、過去には写真の一部を使用したパロディが著作権侵害の判決を受けた例があり、コラージュやパロディであればすべて許されるわけではない。また、杉田氏は作品の元となった写真の出典を明かしていないが、最低限それを明示することが撮影者やアーティストに対するのリスペクトではないだろうか。
杉田氏が具体的な名前を挙げた現代アートの巨匠であるアンディ・ウォーホルも、雑誌に掲載されたハイビスカスの写真を無断で使用したとして著作権侵害で訴えられている。裁判は和解で終わっているが、ウォーホルは「当該作品2点と複製プリントの一部収益を写真の権利者に渡す」という事実上の敗北和解案を受け入れている。
Aさんはこの杉田氏の回答に対し、「これが美術界の常識だと思われると本当に悲しい」と語る。
「杉田さんのやり方に納得がいかず、先輩の画家やギャラリーの方に相談したことがありますが、皆さん杉田さんのやり方には否定的でした。志のある作家なら、スタッフを搾取したり、他人の作品をトレースするようなことはしないんです」
ある作品に影響を受けて新しい芸術作品が生まれることはある。しかし、それには法律で定められたルールに従わなければならない。権利者の許諾を取り、出典を明記する。それが同じクリエーターに対する敬意であり、作品を楽しむファンへの誠意ではないだろうか。
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6月24日21時~の「文春オンラインTV」では、本件について担当記者が詳しく解説する。