一宮神社に参拝すると、境内にはステージのような設備があり、異様に広い庭のようなスペースがある。賽銭箱の口の部分がなぜか細くなっており、100円玉が入りきらず何枚も放置されている。手をのばせば誰でもこの100円玉を回収できるが、罰当たりなことをする人は皆無のようだ。
飲食店は皆無…「集会が中止になったのがダイレクトに影響」
「ワクチンを打つのが早かった。1年前の4月下旬に1回目が始まり、すぐにほとんどの人が打ったね」
取材に応じた村民の一人はそういって村の状況を語った。村には診療所が1つしかない。新型コロナが悪化して伏せった場合、大事になるのは目に見えているため、村民はためらうことなくワクチンを接種していった。
また、人口が少ないため1回目から16歳以上の住民全員が対象となった。同様に2回目、3回目もスムーズに接種が進み、ワクチンの効果が「ゼロコロナ」の実現に一役買ったという。
また、「飲み屋がないのも一因だろう。だから、集会が中止になって人が集まる機会がなくなったのがダイレクトに影響したんじゃないか」という住民もいた。
確かに、島には昼食を食べる店すらほとんどない。最近、夜も営業する食堂がオープンしたというが、それまでは予約制の焼肉屋が1軒あるだけで、夜は文字通りの漆黒の闇に包まれる。観光客も入島するが、泊まりは他の島という人がほとんどだという。
各家庭で法事や祝い事があると多くの親戚が集まり、料理に酒にとどんちゃん騒ぎをするのが、村民たちの数少ない娯楽のひとつだった。だが、コロナでこうした風習も自粛に追い込まれ、一貫して「三密」とは無縁の生活を送ってきたと複数の村民が証言する。
文字通り“みんながファミリー”の島… 「魚を食べたければ、釣るか、もらうしかない」
〈小さな島 みなファミリー 知夫里島〉
村の広報誌の1ページ目にはこんなスローガンが表記されていた。「村民の誰かと誰かは何かしらの親戚関係がある。だから悪さはできないんだ」。取材に応じた村民たちは口をそろえる。加えて、村民の1人は言う。
「ここには魚屋がないんだよ。魚を食べたければな、釣るか、もらうしかない」
もちろん、食料を確保するために魚釣りをする人はいない。漁師から分けてもらい、分けてもらった人はまた別の人に分けてあげるという厚意の連鎖で、住民のタンパク源は確保できているという。こうした密な関係の「村社会」が、いい意味で命をつないでいるわけだ。
「みんなコロナで1人目になるのを恐れている。誰がなったか分かるからね」
「みんなコロナで1人目になるのを恐れている。誰がなったか分かるからね」
他方で、取材時に多くの住民から聞こえたこの意見は、そんな生活実感のもうひとつの側面を示しているのだろう。
島には駐在所があり、警察官1人がいるが、犯罪は10年単位で起きていない。