1ページ目から読む
4/4ページ目

「みなファミリー」ゆえによこしまな行為をしようものなら、あっという間に悪評が口コミで広がり、島内で生きづらくなる。悪い言い方をすれば衆人環視で治安が維持されており、島内にある監視カメラはわずかに3台だけという。

駐在は1人。港にパトカーがあると不在だと分かる

 流行初期を思い起こせば、確かに日本国内どこでも誰が感染したと割り出す人がいて、人権問題にまで発展した。感染者が増えすぎて「過去の話」になったが、この島では今も「1人目」を警戒しているという。

 村民は軽自動車の車種や色で、誰が運転しているか分かってしまう。ある村民の厚意で自家用車に乗せてもらったが行き交う車、通行人のほとんどの人にあいさつや目配せをしていた。

ADVERTISEMENT

 逆に筆者のような「よそ者」がやって来ると一目瞭然で、コロナを警戒してか、話しかけると、急にマスクを取り出す人も珍しくなかった。

 村民は「みんな県外はもちろん本土へ行くのも極力避け、都会にいる親族にも『帰るな』と命じていた」といい、「1人目になるまい」という覚悟が、リスクの高い行動の自制を促して防疫につながったのは間違いない。

隣の島とを結ぶ内航船

 実際、今年4月、移動の季節が到来し、それまでほとんど感染者が出なかった隠岐諸島で感染者の報告が相次いだ。片道約20分の内航船で結ばれる隣の西ノ島町、海士町でも続々と感染者が見つかり、フェリー乗務員の感染で定期便が一部欠航になる騒ぎもあった。

 知夫村でも島外からやってきた人に感染者が出たものの、程なく回復。幸いにも村民への感染には至らなかった。

「楽園のような島」が受けた“深刻な影響”

 赤ハゲ山の絶景、無料でもらえる魚、そして島民の感染者ゼロ……。長いコロナ禍で楽園のような島だが、高齢の村民は「俺には祭りが命のような存在だが、コロナが始まってからずっと中止が続いている」と嘆く。

最高峰の赤ハゲ山からの眺望

 前述の一宮神社で毎年7月にある例大祭では、有志による芝居や歌謡ショーが繰り広げられるが2年連続の中止に。春を告げる祭り、秋の文化祭も中止になる。

「祭りでは島外出身の移住者、教員がステージに立ち、顔見せの場となっていた。過去にないほど、人と人とのつながりが薄れている」。その男性はそう嘆息した。

 今年も一宮神社の祭りは中止が検討されているという。娯楽の少ない小さな島だからこそ徹底的に楽しむ祭りが、今も開けない。大都市と同様に、この島も“失うもの”は多かったに違いない。

写真=筆者撮影

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。次のページでぜひご覧ください。