「ふんどしイケメン雀士」「妊夫」を演じることも
そして現在地。「謎多き」人物なり生き物を演じることが増えたのには、それなりの布石がある。阪本順治監督作、藤山直美主演の映画『団地』(2016年)では、礼儀正しいが日本語がおかしい、晴れた昼間に傘をさして歩く男の役。藤山直美と岸部一徳が演じる夫妻と懇意なのだが、実はこの星の生物ではない。膝を打った。
また、映画『高台家の人々』(2016年)では人の心が読める三兄弟の長男役で、要するにテレパス、超能力者だった。
浮世離れした感がしっくりいくのは、穏やかで低め安定の声がもたらすα波のせいなのか。一方、キレッキレの工もいる。『麻雀放浪記2020』(2019年)では、1945年から2020年にタイムスリップした主人公・哲。昭和の時代に命を賭したヒリヒリする勝負を経験してきたが、令和では賭け麻雀がご法度。
不本意ながらも、学ランに手ぬぐい、下半身はふんどし姿でイケメン雀士として注目を集めてしまうが、昭和に戻るために奔走するというドタバタコメディだった。ふんどし姿にさせられるあたり、まだ「へそから下の人間模様」を託されている要素は大きいが、本人が解放感を楽しんでいるような印象も強い。
ドラマでも、工は観たことのない役割を果たすようになった。『共演NG』(2020年・テレ東)では、ショーランナーなる人物として、テレビ業界と芸能界を引っ掻き回す役だった。視聴率のために話題性を優先し、共演NGな役者ばかりを集めたドラマを指揮する。出演といってもほぼほぼリモートね。
また、『漂着者』(2021年・テレ朝)では、全裸で漂着した謎の男・ヘミングウェイを演じた。記憶喪失だが、予知能力があることが判明し、一躍「時の人」になる、という物語。
きわめつけは、Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』だ。妊娠するのよ、工が。性別と科学の壁を一気に超えても、工なら「ありえる」「違和感なし」。
人間であれば特殊な能力や才覚を発揮、人間じゃなくても人間に対する慈愛に満ちた謎の生き物。そんな立ち位置を確立してきた工が『シン・ウルトラマン』で適役だったというのも、ご理解いただけるはず。