演じる世界を信じて守る
役者だけでなく、映画監督として作品も作り続けている工。初めての長編映画は高橋一生を主演に迎えた『blank13』(2018年)。
ギャンブルで借金まみれだった不甲斐ない父親が死ぬ。葬儀に参列した人々から、在りし日の父の姿を知る兄弟という物語。凡人の私はこの作品のよさが正直よくわからなかったが、数々の国際映画祭で受賞、秀作と評価された(私の目は節穴)。その後も、竹中直人や山田孝之と共同監督で『ゾッキ』(2021年)を撮り、来年には監督作品『スイート・マイホーム』(窪田正孝主演、神津凛子原作)も公開予定だ。
彼の活動は「演じる」から「実験する」「作る」へと広がり、「守る」「育てる」にも発展している。映画館のない街の子供たちに映画を届ける移動映画館プロジェクト「シネマバード」を提案し、東日本大震災の被災地などを回った。ライフワークとして精力的に動いている。
また、昨年には、井浦新や渡辺真起子とともに、俳優たちが全国の小規模映画館を支援する「ミニシアターパーク」を立ち上げた。252人の名優たちがミニシアターへの愛と応援のコメントを寄せた動画を公開したり、イベントにも積極的に出演している。
彼が抱えている箱の中身はどんどん増えている。形にならないものや名前の分からないものも相変わらず多いが、そこに人々は惹きつけられるようになった。箱に何かを放り込んでいく人もいれば、箱の中身を品定めしている人もいる。それでも彼は淡々と説明を続けている。どうやら箱の底にあるのは「希望」のようだ。