遊郭跡の旅館に潜入!
「すいませーん」
声をかけると奥からご主人が迎えてくれた。とても優しそうで、表情から人の良さがにじみ出ていて安心する。部屋に案内され一通り説明を聞くと、荷物をおろして早速館内を探索だ。
1階は風呂や調理場、食事をする部屋。急な階段をあがった2階が客室だ。建物は古いものの、清潔でアメニティも揃いエアコンも完備、環境としてなに不自由ない。
バストイレは共同だが、洗面台は部屋にある。ありがたい。壁にはダイナミックに貼られた掛け軸のような絵が、金色に輝き格式を高めている。
寝転びながら眺めれば、まるで殿様にでもなった気分だ。
また、部屋も廊下も、床はあらゆる箇所が傾いており、歩くたびにギシギシと軋む。まっすぐ歩いているはずが、無意識に体が傾いてしまう。それも新しいホテルにはない古い建物の魅力だ。歴史を感じながらそれも込みで楽しんでしまおう。
丁寧に保存された貴重な品々
廊下には見るからにお宝のようなものがガラスケースに飾られており、なんだろう? とじっくり見ていると、旅館のご主人が丁寧にひとつひとつ解説してくださった。
並ぶ食器は北前船で佐渡に渡ってきた焼物や古美術品。貸座敷で、また結婚式が開かれる際に使っていたもののようだ。料理を出していたお皿や、お酒を入れるとっくり、おちょこ、芸妓が使う扇子や太鼓など、あらゆる思い出の品々が並ぶ。
遊郭としては戦前まで営業し、戦後になると、ところどころ修復しながら建物はそのままに旅館業へと転業したそうだ。それほど古い建物にもかかわらずキレイな状態のままで残されているとは、長年大切にされてきたことを物語っている。
おしゃれな金具がたくさんついていることが特徴の佐渡タンス。アンティークのタンスの中でも王様といわれる気品と風格のある佇まいは、素人目にも高価であることがわかる。
金具には鶴亀や鳳凰などめでたい図柄が緻密な透かしで表現されており、その美しく豪華なデザインは見惚れるほど圧巻である。江戸期、北前船の寄港地として栄えた佐渡は商人の拠点であり、金山もあったことから、多くの富を生み、人々が集まった。やがて遊興の街が発展すると、船頭の依頼で芸者に与える豪華な衣裳タンスとして佐渡箪笥の一種である小木箪笥が制作された。現在佐渡タンスはほとんど作られていないため、アンティークとして出回っているものがほとんどで、家具としてはもちろん、美術品としても大変価値のある貴重なものだという。